世界の都市の家賃高騰と日本の地方の意識改革

先日オーストラリアに住む会社の同僚が日本にやって来ました。彼と私はお互い日本市場を担当しているので、オンライン会議では何度か面談しているものの、実際に顔を合わせるのは初めてでした。実は私にはもう1人、オーストラリア在住のオーストラリア人の同僚がいますが、明らかに彼の英語はアメリカ英語だったので、どういう事情なのかと思っていました。聞けば彼はもともとサンフランシスコ近郊で生まれ育ったけれど、最近オーストラリア人の女性と結婚してオーストラリアに移住し、現在の会社にアジア担当として雇われたとのこと。

一緒にいくつか客先を訪問する中で、最近日本の円安が進み、日本の若者がオーストラリアに出稼ぎに行くようになったという話をしました。でも物価が高すぎて、オーストラリアに渡った若者はかなり苦労しているらしいという話も。特に家賃については、日本と比べて高すぎで、物件自体なかなか見つからないようだと。彼は現在ブリスベンに住んでいるとのことなのですが、オーストラリア人でも良い物件はなかなか見つからないそう。現在オーストラリアでは、家計は一馬力ではとても回らず、彼も彼の奥さんも共にフルタイムで働き、一方の稼ぎはそのまま家賃に消えると話していました。

その後話題は家賃の話に。彼が最近まで住んでいたサンフランシスコ近郊も、実際すごいことになっているとのこと。私はアメリカではボストン近郊に住む友人が多いのですが、ボストンも家賃がここ10年くらいで倍近くになっていると聞いています。

ある友人はボストン近郊のブルックラインというところに1ベットルームのアパメントを借りているのですが、その家賃が何と月に4000ドル。(およそ60万円)その話をしたら、サンフランシスコ近郊だと、4000ドルでは本当に最低の物件しか借りられないと。ちなみに彼もサンフランシスコ郊外に小さな家を持っているそうで、今は賃貸に出しているそう。その家賃が月に5000ドルで、周りからはもっと家賃を上げるべきと言われているけど、彼は「すごくいい人達に住んでもらっているから、家賃は絶対上げたくないんだ」と。

サンフランシスコもここ20年ほどで家賃が爆上がりしているそうです。Googleをはじめとした大企業が集まることで、給与の高いIT技術者達が大量に流れ込み、彼らの給与に合わせるように家賃が上がり、上昇する家賃が払えない人はさらに郊外へ、そしてしまいにはホームレスになってしまうと。どんなに一生懸命働いていようとも、定職の他に副業をこなしても、とてもとても追いつかない水準まで来ていると。彼も「学校の先生や、公務員のような普通の給料をもらって生活している人たちは一体どうしているんだろう」と。

同じアメリカでも家賃高騰の理由はさまざまですが、ボストン近郊の場合は医薬品研究開発のハブとなったことで給与の高い研究職や、この分野の弁護士などがボストンの隣町の特にケンブリッジ地区に大量に流入し、もはや庶民が生活をするのは難しくなっています。

シアトルはAmazon社員の流入(ピッキング作業をする人たちではなく、給与の高いIT系の社員)をきっかけに、追われた人達が大量にホームレス化し、問題になっています。元々家賃の高いNYはもはや、一般人が住めるところではなく、サンフランシスコ同様、大量のホームレス、薬物中毒者の増加、治安の悪化が社会問題化しています。そう考えると東京は家賃の高い物件や地域ももちろんあるけれど、海外の都市と比べると、新築物件は高騰しているものの、家賃の上昇はわずかです。

私は現在、東京23区内に住んでいます。「家賃は2LDKで800ドルくらい」と彼に言ったところ、「そんなに安いの??」と驚かれたのでした。東京といえば、10年くらい前までは世界の生活費の高い都市トップ5くらいには常にランクインしていたのですが、本当に日本は安くなったと感じます。

高騰する家賃の問題は、元々土地が少なくて不動産物件が需要に追いつかないシンガポールや香港で狂気の沙汰としか思えないような家賃になっているのはある意味仕方がないとして、土地が余っていそうなオーストラリアやカナダの都市部などでも、移民の流入に住宅供給が追いつかず、家賃の高騰が続いています。

また日本と違い海外の場合、通勤にかかる費用は個人負担なので、郊外に行くほど通勤にかかる費用も時間もかかります。だから給与の低い人ほど職場の近くに家を借りたいけれど、職場が都市の中心部にしかない場合、家賃が高くて借りられない。逆に郊外では家賃は安いかもしれないけれど、職場に行くのにコストがかかるという訳です。もはや低賃金の仕事で生計を立てるしかない人達にとっては、都市部ではシェアハウスが普通で、家族で住める物件を探すのは困難とのこと。若者や単身者が狭くても1人でも住める住宅を借りられたり、低所得の家族が公営住宅に住める日本は、世界では例外なのかも知れません。なんだかんだ言っても東京には需要に比して不動産物件が多く存在するということなのか。だとしたら今後少子高齢化が進むとどうなるのか、考えると怖いですね。

ところで話はちょっと変わって。。。

8月に政府が、2025年度、結婚をきっかけに東京から地方に移住する独身女性の支援として、60万円を支給する案を出したものの、3日で撤回したというのがありました。独身女性=子供が産める女性=子供を産んでもらえると考えるという単純思考回路も可笑しいですが、地方には仕事がないから女性が東京に流入するのだということに考えが及ばないところが問題ではないでしょうか。地方に行けば家賃はきっとお安いでしょうし、結婚すれば家賃負担はもっと少なくなるかも知れないことは、女性でもわかります。でもそうできない理由があるわけです。

日本女性は海外先進国に比べ特に非正規率が高く、故にできるだけ職場の近くに住みたい人が多いのではないでしょうか。結婚で地方に移住したら、職場が遠くなり、通勤と仕事で疲れて子作りどころではないとなるかもです。地方に仕事があれば良いのですが。

大事なのは男も女もフルタイムで働くことを前提に子供を産み育てられる環境を地方が作ることでしょう。また、女は結婚したら仕事をセーブして、家事を優先させるべきというような考えが根強い地域には、今時の女性は60万円ごときでは移住しないでしょう。

つまり地方の意識改革が一番重要で、そのためには地方議会の古くさい考えの爺様達には引退してもらい、若い議員と入れ替えることも重要です。独身女性にとって東京の一番の魅力は、女だからやれ早く結婚しろとか、子供を産めとか、女のくせに旦那を置いて海外出張するなとか、色々うるさく言われないことなんです。この自由を手放したくなくて、たくさんの女性が経済的には厳しくても痩せ我慢して東京に住んでいる訳です。東京は収入が少ない独身女性でも、なんとか住める環境があるともいえるかもしれません。この点に気づけない地方は、おそらく若い女性の流出が止まらず、衰退する一方でしょう。早く手を打たないと10年後になくなりそうな自治体はたくさんあるでしょう。