私は長年フリーランスとして働いています。しかも独身ですから、フリーランスの老後問題は他人事ではありません。そこで日本のフリーランスの老後について年金の観点から考察してみたいと思います。
最近はYouTubeなどで年金問題などを取り扱っているチャンネルも多いせいか、若い世代でも年金を含む社会保障問題や税金の問題を勉強している人が増えました。恥ずかしながら私は、自身が会社員をしていた頃、給与の手取額しか注目しておらず、毎月いくら税金を払っているのか、社会保障費がいくらなのか、それがどう使われているのかあまり気にしていませんでした。ですから最近の若い世代が自身の老後に、社会保障、税金問題に興味を持っている人が多いというだけで、30年前に20代だった私の世代より、世の中ずいぶん進歩していると感じます。
私が税金や社会保障費について考えるようになったのは、米国で留学生として働きながら大学院に通っていた2年間と、同じくほぼフルタイムで働きながらカナダで大学院生をしていた時です。米国では大学の図書館でスタッフとして働いていたため、税金の手続きなどは大学がしてくれたのですが、カナダでは自分で確定申告しなくてはならず、カナダの税務署のサイトを隅々まで読み、人生で初めての確定申告を電子申告しました。2000年初頭のころです。
カナダの税制は決して安くはない所得税に加え、消費税もかなりの税率ですから、どんな目的でどう使用されているのか興味を持ちました。一方、当時私が住んでいたアルバータ州では毎年の健康保険の掛け金が年額100ドルほどと激安で、受診は負担なしの100%無料という破格のシステムでした。もちろん日本同様、カナダにも様々な問題はありましたが、国が違えば税制も社会保障制度も変わることを実感したのです。
その後日本に帰国し、4年の会社員時代を経てフリーランスとなりました。途中米国企業(米国企業の日本法人ではなく)の社員になったことも数年ありますが、基本的には個人事業主、またはマイクロ法人として活動し、ほぼすべての税や社会保障にかかわる手続きを自分で行っています。ですので、個人事業主を含むフリーランスの税制と、会社員の税制の違いなど一般人より詳しいと思います。加えて米国とカナダでおよそ正反対な社会保障のあり方を目の当たりにし、この二つと比較して日本の制度の良い点、悪い点などをじっくり考える機会に恵まれました。
フリーランスの年金
フリーランスの場合、法人化しなければ厚生年金には加入できませんから、基本的には国民年金のみです。現在、国民年金は20歳から60歳まで40年ずっと掛け金を払い続けても、65歳以降受給できる金額は満額で月額6万5000円程度です。この金額で老後を問題なく生活できる人いるでしょうか?いないですよね。つまり国民年金は生活のほんの足しにしかならならず、フリーランスの方は国民年金以外の老後の生活費も別に確保しなくてはいけないということです。国民年金については、今後はインフレで受給額が実質目減りするかもしれませんし(インフレに応じて金額がスライドする前提ではありますが、激しすぎるインフレには対応できないでしょう)、現在65歳となっている受給開始年齢が今後70歳以降に繰り延べされる可能性も大いにありますし、受給額自体が減る可能性もあります。制度自体はなくならないかもしれませんが、金額的には、年金だけで生活することが不可能というのも正しい理解だと思います。
現在国としてはフリーランス(非正規)を増やす方向に舵をきっているわけですから、フリーランスの老後がしっかりとしたものになるよう考えなくてはいけないと思います。そうしないと結局、出生率も上がらないですし、生活保護受給者も増えると考えます。国は子育て支援として様々な給付金を現在ばら撒いていますがこれは、出生率の増加には全くつながらず、安定した立場で働いている家族をより豊かにするだけで、将来に不安があって家族を持てない人の助けには全くなりません。
ちなみに国民年金の掛け金は現在月額16,980円で、40年支払ったとすると、総額8,150,400円となります。65歳以降、月65,000円ずつ受け取ると考えると、およそ125ヶ月、つまり10年ちょっとで掛け金分はなくなります。75歳以上生きた方は掛け金より多くもらえ、それより先に亡くなった方は残念でしたとなるわけです。国民年金の場合は、生きている限りもらえるので、長生きする人にとってはかなりお得な制度であることは間違いありません。
日本の年金は賦課方式を採用しているため、現在高齢者に支払われている年金は現役世代から集めた掛け金であり、受給者>掛け金負担者の場合、そもそも制度として成り立ちません。詳しくは「社会保障制度の改革が必要なわけ」をご参照ください。
ちなみに厚生労働省のHPに、年金受給者や被保険者の統計にかかわるデータがアップロードされています。それぞれの数を別のデータファイルで掲載するあたり、なかなか涙ぐましいのですが、このデータファイルを良く見ると、2013年にはなんと年金受給者(68百万人)>被保険者(67百万人)と年金受給者数の方が多くなっており(重複する数字があると考えますが)、令和になってその差はますます広がっています。2025年は団塊の世代が後期高齢者となるタイミングですから、この差は増々広がるでしょう。
つまり、私たちはすでに現役世代一人で一人の高齢者を支える段階に入っているわけです。先ほど、国民年金が満額もらえたとしてもたったの月額6万円?と思った方、受け取るには少ない額ですが、誰かのために負担するには大きな額です。そしてその負担額は現在の制度のままでは今後増えることはあっても減ることはありません。
フリーランスの年金の今後
ではフリーランスの年金はどうすればよいのでしょうか?年金制度を持続させるとすれば、前回のブログでも述べたように、年金受給世代と若い世代を切り離して別の制度で運用するのが良いと個人的には考えています。現在受給されている世代の年金については、一時的に年金国債のようなもので基金を集め、その後団塊の世代がお亡くなりになって入ってくる予定の相続税などをこの国債償還の費用に充てるのが現実的ではないかと思います。高齢者には困窮されている方も多くいる一方、かなりの資産を持っている方も多いので、相続税もそれなりの額になると考えます。団塊の世代の人口動態の変化が、良くも悪くも日本の今後の財政に大きなインパクトをもたらします。
対する年金生活者を現在支える世代はこれまで支払った年金の積立金をそっくりiDeCoに移して自分で運用というのが良いと思います。現在iDeCoの場合、フリーランスは月に6.8万円程掛け金として非課税で積み立てができますが、この非課税の上限額をもっと引き上げ、年金だけで老後の生活ができるように月払い、年払いの積立や、何年かごとに一度にまとめて積立できるようなオプションも加えては良いのではと思います。フリーランスは収入が安定しないので、儲かった年は多めに払い、少ない年は少なめに納付して、フリーランスが税金対策としても年金積み立てを活用できる制度を検討すべきと思います。
現在のiDeCoは個人で運用するものですが、オプションとして国民年金基金等で運用してもらうオプションもあると良いと思います。例えば積立金の30%を個人で運用、70%を年金基金に預けるなど。国の運用なんて信用できないという方は100%自分で運用し、非課税のメリットだけ享受すればよいでしょう。誰もがこの手の金融商品の運用が得意ではありませんので、国に運用してもらいたいという方がいてもそれはそれでよいと考えます。ただ2025年のiDeCoにかかわる法改正で、掛け金の引き上げと共に退職所得控除条件の変更がありました。フリーランスで小規模企業共済を同時に活用している方は注意が必要です。これは改悪ともいえるもので、こうした改正が続くとiDeCoでの年金運用が難しくなってしまいます。
年金だけでは生活できない場合はどうするか
フリーランスに限らず、基本的には生活保護などの利用しかないでしょう。税金は所得税だけではなく、消費税やガソリン税などいろいろな税を通して皆さん税金を払っているわけですから、困ったときは大手を振って生活保護を申請すべきと私は思います。自治体では生活保護費をできるだけ減らすべく、新規で生活保護を利用する人にかなり厳しい対応をしますが、新規の申請者には直ぐに対応すべきで、逆に長年自助努力もなくもらい続けている人は何らかのアクションが必要だと思います。
生活保護は貯金が0にならないとだめだとか、子どもの学資保険も含め、保険はすべて解約しなくてはだめだとか、例え通勤に必要な地域でも車は持ってはいけないなど変な制約をつけている自治体が多くありますが、困窮しはじめた時に直ぐに保護が受けられれば、短期間で生活を立て直すことができます。気力も含め、何もかもなくなるまで追い込まれたら、本当に立ち直れなくなってしまいます。日本に長期の生活保護受給者が多いのは、生活保護を受給する前に限界まで困窮者を追い詰める、自治体の水際作戦にも原因があると思います。また同時に受給者が生活保護を抜けるとメリットがあるような運用の検討も必要と考えます。
生活保護に加え、現在の国民年金程度の受給額くらいのベーシックインカムも将来は検討すべきではないかと考えています。不謹慎ですが、それこそ団塊の世代の大半が日本の人口動態から姿を消したタイミングから、検討可能になるのではと考えます。現在は何かと老後に不安を抱えて生活されている方が多いと思いますが、日本の場合やはり団塊の世代の人口動態の変化が鍵です。ですから今からでも将来に向けて対策をすることも、制度を現役世代のために良い方向に変えることもまだ可能だと考えています。