外国人による日本の教育と医療のただ乗り問題を検証する

今日は以前から気になっていた二つの問題について書きたいと思います。ただ乗りという言い方は適切ではないかもしれませんが、巷で言われていることについて、私の考えをまとめたいと思います。

外国人留学生は日本人学生より優遇されているか

ネットでは「日本の学生には高利の奨学金という名の学生ローンしかなく、外国人留学生には授業料無料の他、生活費を国が支給している」という噂が飛び交っています。ですが両方とも正しくはありません。

日本人向けの日本学生支援機構による奨学金は、有利子のものもありますが、利息は非常に低いです(長い間1%以下でした)。高いのは延滞した場合に生じる延滞利息です。給付されるものだけを奨学金と呼ぶなら、名称は学生ローンに変えるべきかもしれません。ですがこのおかげで大学を卒業できたという人を私は何人も知っています。ちなみに私自身もその一人です。

人生予測不能なことが誰にでも起こりえますので、借りた奨学金を返済できなくなる事態になることもあるでしょう。ですがそれは奨学金を借りた個人の問題であり、制度の問題ではありません。一部の政党の公約か何かに、奨学金をチャラにするというのがありましたが、それは信用で成り立つ金融システムを根底から破壊するものであると考えます。借金踏み倒しを肯定するのは、いい方がきついかもしれませんが、かなりやばい思想だと思います。チャラにするなら自己破産という合法的な方法もあるのですから。

さて、外国人留学生が日本人学生より優遇されているか否かですが、留学生の中でも国費留学生は確かに恵まれています。大学生の場合は受験料や授業料全額免除の他に、生活費として月に10万円-20万円程度の給付金と、さらに往復の航空運賃が支給されます。この国費留学生に当たる外国人は留学生全体(およそ30万人)の3%程度、1万人程度とのことです。SNS等で問題にされるのは、この国費留学生の待遇のことだと思います。ですが人数としては少ないですし、他の先進国でも国費留学生には好待遇ですので、この待遇が特別だとは思いません。

私費留学生に対しては、日本学生支援機構が給付型の奨学金も提供していますが、採択された数は年数百件ともっと少なくなります。国公立大学に在学する私費留学生には、授業料減免の制度などがあり、授業料の上限も決められていました(日本人と同額)。しかし昨年、大学が自由に授業料を設定できるよう法改正されました。

この法改正の背景にあるのは、日本と海外の留学生受け入れ状況の比較によるものと思われます。私は米国とカナダの大学院に通った経験がありますが、米国もカナダも、州立大学や国立大学の場合、外国人留学生は自国民の2倍の授業料を支払うのが普通です。ヨーロッパの一部の国々では外国人も大学授業料無料という国がありますが、数としては少なく、外国人の方がより高い授業料を払う方が普通でしょう。そのため、昨年の法改正では大学が日本人より高い授業料を留学生に科すこともできるようになりました。私立大学については、大学ごと異なる基準になっています。

先週、インドから同僚が来日し、移動の間、日本とインドの教育制度の違いについて少し話をしました。インド人の留学先として日本や台湾が米国や英国に次いで人気だそうです。理由は待遇の良さ(留学するインド人は優秀な人が多いので国費留学生が多いと思われる)と学位の取りやすさ、そして日本で学位をとるとその後米国に留学しやすいからとのことでした。大学には個人的に職員として働いている知人も多いため、いろいろな話を聞きますが、インド人だけでなく中国人も日本経由で米国に行くという学生が理系では圧倒的に多いようです。修士号を日本で取って米国の博士課程に留学、あるいは日本で博士号を取って米国でポスドクなどです。

近年、特に日本の大学の理系学部では女子学生を増やす以前に日本人学生が激減しており、留学生なしでは研究が成り立たないような大学院も多いのです。そうした大学は特に、外国人留学生獲得に熱心にならざるを得ません。外国人学生でも希望者は入れたいと考える大学の方が、多いのかもしれません。

結論として外国人留学生が日本人として優遇されているかというと、好待遇なのは限られた人数の国費留学生であって、私費留学生についてはこの限りではありません。国費留学生の質の問題や、日本を通過点としか考えていない学生を国費留学生としてもてなすことの是非、人数(予算)や受け入れる分野の優先順位等については議論の余地があるでしょう。受け入れ先としても、日本としても留学生を受け入れるメリットはもちろんありますので、一方的な議論ではなく、議論の前に十分な調査も必要だと考えます。

外国人が日本の医療をお得に使用したいと画策する件

日本の場合、健康保険を持っていれば自費診療を除くすべての医療に等しくアクセスし保険償還を受けることができます。それは非常に素晴らしいことです。日本以外の国で生活したことがない方には「なんのこと??」でしょうが、日本以外の国では、例えば持っている健康保険の種類によって受診できる病院が限定されたり、使えない薬剤があったりすることも多いです。また持っている保険の種類により、同じサービスでも支払う金額が変わることも多くあります。日本で違いがあるのは、後期高齢者の二割負担と一般の三割負担の違いくらいしかありませんし、日本の健康保険を持っているなら、外国人でも支払い条件は日本人と同じです。

先ほど出てきたインド人に、インドの健康保険制度を聞いたところ、インドでは健康保険の使用頻度の高い人は翌年の保険料が上がり、また年齢が上がるとともに保険料が上がるとのこと。つまりプライベートの保険同様、リスクの高い人には負担が大きくなる仕組みを採用しているようです。

以前問題になったのは、日本で勤務する中国人が、日本に居住実態のない三親等以内の親族の治療費についても請求できる権利を悪用していたことです。この問題については一度マスコミで取り上げられ、その後法改正があり、日本に居住していない外国人家族に関しては保険の適用から外れることになりました。

最近問題視されているのは、日本のもう一つの魅力的な健康保険の制度である高額療養費制度を悪用するというものです。

高額療養費制度とは、医療費の支払い金額が一定額を超えた場合、自己負担額を一定額以下に抑える制度です。そして自己負担額は被保険者の収入により増減します。例えば、オブジーボという抗がん剤は、最初上市された際、治療費として年間で3000万円くらいかかると言われていました(現在は薬価がかなり切り下げられました)。一カ月当たり約250万円です。高額療養費制度を使うと自己負担金は、住民税の非課税者で月35,000円程度、年収1,160万円以上で月に25万円となっていました。この自己負担金額は2025年8月から引き上げが決まっていますが、それでも元々の薬剤費を考えると、負担金はわずかです。

日本の制度が素晴らしく、そして世界から見ると頭がおかしいのでは?と言われる点は、諸外国では保険で支払われる金額の上限が決められており(例えば月に50万円まで、あるいは一回の治療で100万円まで等)、日本のように天井なしで保険から支払いが行われるわけではないということです。

例えば中国では、この日本の高額療養費制度はかなり知られており、中国のSNSでは自分も、家族もこの制度を使って治療できないかという書き込みで溢れています。そしてもちろん、そのような切羽詰まった人たちに悪知恵を与えて儲けようとする専任のコンサルやブローカーのような人達も大勢います。そして指導を受けた中国人が、日本に法人を設立して経営管理ビザで来日し、日本の健康保険を入手して高額ながん治療や透析治療を受けるわけです。

日本の健康保険は被保険者の所得によって保険料が変わりますが、外国人の場合は来日する前の収入はカウントされず、経営管理ビザで来日する外国人の初年度の保険料はほぼタダです。その保険料で高額療養費制度を使いつくされてはたまったものではありません。

先ごろ、岩屋外相が中国人の富裕層向け観光ビザの延長を検討しているとニュースになりました。本当に観光ビザだけなのでしょうか?他のビザに拡大される可能性はないでしょうか?経営管理ビザも基本的には富裕層向けで、日本でビジネスをして税金を払ってくれることを期待して発給するわけですが、実際には高額療養費制度を利用して日本で高額な治療を受ける目的で申請されることもあるわけです。期待した効果が得られるか良く考える必要があります。

またあまり知られていませんが、日本の健康保険は海外での治療についても保険が適用されます。日本人の場合、海外旅行や駐在をする際は、手続きの簡便さや支払われる金額の問題から、プライベートの医療保険に加入する場合がほとんどで、日本の健康保険の適用は実際少ないと思います。ですがこの制度を悪用する外国人も結構いて、海外での治療費(架空のこともある)を日本の健康保険に請求する場合があります。この支払いスキームでは、海外で治療した治療費について、日本で同じ治療をした場合の金額が支払われます。ですから途上国で治療した場合、日本より治療費が安いでしょうから、実際の治療費よりも高い金額が支払われることになります。あるいは治療を受けた事実がないのに、現地の病院と結託して架空請求することもあるかもしれません。同じ治療を米国で受けると、日本よりずっと高額ですから、日本の健康保険に請求する方はいらっしゃらないと思いますが。。。芸能人のローラさんのお父様が、以前バングラディッシュで受けたとする治療で健康保険に不正請求して逮捕されたことがありましたね。

高額療養費制度は良い制度であると思いますが、保険から負担する金額の天井がないことは適切なのか疑問です。外国人でなくても、日本人でさえ、治療効果があまり期待できない高額な薬剤を試す動機づけになってしまうことがあるでしょう。

医師が参加する学会では、高齢者の余命を数カ月伸ばすためだけに何千万円もする薬剤を使用するのは間違っている、年齢制限を設定すべきなどと議論されることもあります。つまり専門家の間では結構議論されているのです。こうした医療制度にかかわる議論は、そろそろ年金制度や安楽死問題共々オープンに議論すべきと思います。こう言うとすぐに左派から、「障碍者や老人に早く死ねというのか!!!」などと感情むき出し的な意見が出て、まともな議論になりません。ですがこのままでは日本は沈没していくタイタニック号にしがみついている乗客のように、いつかは全員冷たい海に沈んでしまいます。

医療費については、まずは外国人による不正利用を徹底的に取り締まることが重要ですが、日本の医療制度自体も改革の時期を迎えていると思います。日本の医療費に比べれば、先に述べた留学生の支援費用は微々たるものです。医療費をもっと効率的に削減できれば、留学生支援も含む、教育やイノベーションといった将来につながる投資がもっとできるのではないでしょうか。