新型コロナワクチンと巷に広がる陰謀論

医師向けの情報サイトを運営している、ケアネットのウェブに面白い記事を見つけました。「COVID-19陰謀論を信じる人の特徴」というもので、「PLOS One」という専門誌に投稿されたものを紹介した記事です。

内容については、この記事、または元の論文を読んでいただくとして、要約すると日本人の約4人に1人(24.4%)が何らかの陰謀論(1. 大手製薬会社が、ワクチンで利益を上げるために新型コロナウイルス感染症を作った、2. 新型コロナウイルス感染症は、全ての人々にワクチン接種を余儀なくさせるために作られた、3. このワクチンを使って、大規模な不妊化を実行しようとしている)のいずれか(重複回答アリ)を信じており、日本の場合、正規労働者や収入の高い人たちの方が、陰謀論を信じる割合が高いというものです。これは先行して海外で実施された結果と異なるというものです。ただ教育レベルの高い人(大学院レベル以上)、中卒以下に関しては陰謀論を信じる割合が低いとのことでした。この結果について、私は回答を持ち合わせていませんが、今日はコロナワクチンの陰謀論について少し思うところを書きたいと思います。

このブログの中でもこれまで、ワクチンに関する私の見解をいくつか書いてきました。何度も書きますが、私はワクチン反対派ではありません。ですが新型コロナワクチンの安全性については未知数の部分があり、安全性に疑念のある人は打たない選択肢も尊重されるべきと考えています。ただ個人的な見解としては、安全性の問題が解決されていないかもしれないという考えはありますが、ワクチンが製造された経緯を考えると陰謀ではないと考えています。以下、私の見解を述べたく思います。

新型コロナウイルスの起源

新型コロナウイルスの起源については、発生から5年たち、再び様々な憶測を呼んでいるようです。ですが、科学者の端くれとして、最も可能性が高いのは、やはり中国武漢の研究所から漏洩したと考えるのが自然だと考えています。

ちなみに、私は日経バイオテクという科学雑誌のライターもしており、2020年6月には、「新型コロナ、武漢研究所起源説の裏に米中対立のとばっちり」という記事を書いています。この当時わかっていた事実は、武漢の研究所で行われていた研究は、米国がスポンサーとなって実施されていたコロナウイルスの機能獲得研究であったことです。武漢で米国の研究が行われるようになったのは、オバマ政権の時にCDCで行っていた研究で事故(おそらく漏洩事故)が多発し、自国でできなくなったから。つまり武漢の研究所というのは、こうした高度な難しい研究も実施できる、レベルの高い研究所であったということです。

米国が機能獲得研究をしていたのは、軍から資金供与があった事実にもあるように、生物テロなどを想定し、1)兵器となる人工ウイルスの研究開発、2)テロから自国民を守るためのワクチン研究開発のための基礎研究(機能獲得研究:ウイルスがどのような動物に感染することで、感染能力や感染した動物への影響がどう変化するかの研究)を実施していたと考えるのが普通であると思います。

新型コロナウイルスが蔓延後、米国があっという間にワクチンを開発できたのも、そうした事態を念頭に置いた基礎研究を行っていたわけですから、当然と言えば当然です。また、現在も米中関係は険悪そのものですが、なぜかこの新型コロナウイルスの件に関し、米国の中国への追及が甘いのは、米国にも探られたくない部分があるからと考えるのが普通ではないでしょうか。

新型コロナウイルスが拡散しだしたのは当初、武漢にある、研究所からあまり遠くない生鮮市場とされていました。ここから多くの患者が発生したのも、研究所が近いことと無関係ではないと考えるのが普通でしょう。研究所に勤める研究者たちは、自分の研究の対象がどんなものか良く理解しています。ですが研究所にはたくさんの人が出入りしますし、研究以外のスタッフも多くおり、研究所で何をしているのか、その研究の深刻さを知らず、焼却処分など厳重に処理すべきものを適当に廃棄したりするやからも、海外では珍しくありません。むしろプロジェクトの機密性が高ければ高いほど、プロジェクトにかかわっていない人たちには何が行われているのか、全くわからないのです。

米国のCDCでさえ、何度も漏洩事故を起こして国内では実施できなくなった研究を、今や米国の永遠のライバルとなった中国に頼っていたというのも大変皮肉な話です。

話は少々脱線しますが、日本でも現在、長崎大学で感染症研究目的のBSL-4施設を整備する話がもち上がっています。BSL-4というのはコロナウイルスなど、感染性の高いウイルスの研究も実施可能な施設です。建設するのであれば離島など、隔離が容易なところに建設すべきでしょう。原発と一緒で、事故は起こりうるものです。建設するなら、あらゆる可能性を考えて施設を作るべきです。役人は大丈夫、きちんと管理しますというでしょうが、実際に管理するのは提案者ではありません。働いている人の中には、約束を守れない人もいるという前提で計画、管理すべきと思います。

ワクチンの陰謀論を唱える人の中には、中国でのウイルス拡散は意図的であったという人もいます。ですが研究の当事者が自らを危険にさらすようなことは考えにくく、やはり事故であったと考えるのが妥当だと思います。米国の動きが速かったのは、まさにこういう事態を想定した研究だったからであり、当然でしょう。

新型コロナウイルスワクチンの今後

これまでのブログにも書きましたが、RNAワクチンというのは新しいタイプのワクチンであり、コンセプト自体は画期的なものです。最近の研究では、当初流通したRNAワクチンの純度がかなり低く、不純物が副反応の原因の一つではないかとも言われています。この不純物に関しては、後に製造された製品ほど改善されています。また不純物と副反応の相関や具体的な影響については、今後もっとしっかりとした調査研究が必要と考えます。

RNAを含めた、核酸医薬というカテゴリーの薬は、コロナワクチンが出る前から存在していました。ですが、希少性疾患と呼ばれる、患者数の少ない病気の治療に使用されることが多かったのです。そのため、その純度の測定方法など、低分子医薬と言われる医薬品とは違い、品質を担保するための明確な基準が存在していませんでした。つまり死ぬのを待つより、品質が悪くても一か八かの治療効果を期待することを想定した医薬品のカテゴリーだったわけです。純度の基準などの多くは、製薬企業の独自基準によるもので、規制当局の見解が追い付いていないのが実情でした。そこにいきなり、高純度を保つことが技術的に難しい長鎖RNAを使用したワクチンが出てきたため、各国の規制当局の規制が追い付きませんでした。

したがって初期の製品に多く含まれていたとされる不純物が、副反応をはじめとした健康被害に影響したことも十分考えられます。政府としては特別な予算をつけてでも、副反応とコロナワクチンの因果関係をきちんと解明し、今後の核酸医薬の規制作成のための根拠としなくてはいけないと思います。現在のままでは、RNAワクチン自体が副反応を引き起こしているのかどうかはっきりせず、怖くてRNAワクチンを打ちたくないという人が多いでしょう。

新型コロナワクチンの定期接種で、一体どのくらいの人が実際に接種しているのかわかりませんが、副反応の問題が科学的に解明されない限り、接種率は上がらないでしょう。むしろ副反応の問題が明るみに出るにつれ、益々国民の不信感は募り、RNAワクチンが市場から一層されるかもしれません。政府が買い上げるワクチンの費用も無駄なら、残ったワクチンを廃棄する費用もすべて無駄になります。陰謀論ではなく、科学的な見地に立って対応することが急務と考えます。

人類はこれまでも、様々なワクチンを開発し、天然痘をはじめたくさんの病気を撲滅し、パンデミックを未然に防いできました。現在、はしかや水疱瘡、ポリオなど、これまでのワクチン普及で抑えられてきたものが、ワクチン陰謀説を信じる人々によって拒否され、再び流行し始めています。ワクチンが普及した現代は自然感染が減り、ワクチン未接種者は大人になるまで感染しないことが多いです。子供の感染と違い、こうした感染症に大人が感染すると現代でも命取りになりますし、家族や親しい人たちを巻き添えにする可能性もあることを忘れないで欲しいと思います。

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