医薬品関連政策について その1

昨日、「株式会社じほう」という医薬業界では名前の知られた会社のインタビューを受けました。業界出身の候補について積極的に情報発信いただいているとか。そういえば先週、取引先に引継ぎのあいさつに伺った際、「(同社が発行している)『日刊薬業』で公認を知りました」というお客様が何人かいらしゃいました。ありがたい限りです。

私は普段自分の考える政策や政策につながる出来事について、忘備録もかねてブログに書き留めていますが、インタビューを通じてまだ書いていないことも沢山あったと改めて認識しました。そこで今日はインタビューを通じて思い出したことを述べたいと思います。

薬価制度に関する私の考え

薬価については時折玉木さんをはじめ、国民民主党の議員が「日本の薬価が低い」、「薬価を上げる」という発言をされているので、党として薬価制度に取り組む姿勢であることは皆さんご承知だと思います。

日本の薬価と言ってもいわゆる先発医薬品とジェネリック医薬品とでは事情がかなり違うので、ここでは分けて考えたいと思います。

先発医薬品の薬価について

日本の薬価は高いのか、低いのかその背景

個人的には新薬が承認されるときの日本の薬価は、特に低いわけではないと考えています。というのも、日本の薬価は承認時に必ず海外の薬価も参照されるため、世界の主要国の承認時の薬価は特別な場合を除き大体同じになっているのです。問題は日本の薬価が毎年少しずつ切り下げられる点です。ですが日本以外にも薬価切り下げのある国は存在し、日本が特別というわけでもありません。

一方、米国では薬は自由経済で価格が設定されるため、特許の切れた薬はジェネリック医薬品の参入により大幅に価格が下落します。日本は国が薬価を決めていますので、米国のように薬価が一気に下がりもしません。細く長く収益を得られるという点では、日本は市場規模も含めて、海外の製薬企業には美味しい市場だったわけです。

最近トランプ大統領が米国の薬価を下げると宣言しましたが、米国の場合、ジェネリック医薬品の薬価は他先進国に比べても安いのです。ただ調剤料その他管理コストが非常に高いという特徴があって、患者が購入する金額は無茶苦茶高いのです。薬価だけの問題ではありません。

薬剤の費用対効果評価

2016年以降、日本は諸外国が実施している医療技術評価(費用対効果評価)を日本にも取り入れようと試行的導入(試行錯誤?)をしました。が、「めんどくさくてやってられない」という結論に落ち着いたようで、それ以降、私個人から見ると(異議のある方もいるでしょうが)日本独自の費用対効果評価を実施するようになりました。

費用対効果評価については、データサイエンスの専門家や医療経済の専門家などが必要です。ですが日本にはそうした研究者を要請する大学すらなく、(データサイエンスは2016年以降、ぽつぽつ大学に開講している)、厚労省から製薬企業、アカデミアまでこうした評価について詳しい人がほとんどいないのです。日本の専門家はほぼ海外で学位を取った人たちであり、給与の高い外資系製薬企業にはいますが、国内の製薬企業や厚労省、アカデミアにはいないのです。諸外国では承認の際に費用対効果評価を加味しながら、いろんな専門家が意見を出しつつ薬価を設定します。ですが日本では日本式薬価計算式に当てはめ、基本的に役人が機械的に算出します。

日本独自の費用対効果評価制度の一つが、悪名高い市場拡大再算定制度です。外資系製薬企業は特に、この制度に批判的でしょう。というのも、この制度は売上の大きい薬剤を狙い撃ちして薬価を下げる制度だからです。承認時の薬価が低ければ、外資系製薬企業が日本に上市しない選択をすることもできるのですが、この制度の悪い点は、すでにマーケティングその他諸費用を投入して何年か経ち、収益が上がった頃に大幅に薬価が切り下げられることです。もちろん?な制度です。

なぜ外資の製品に対象となる医薬品が多いかというと、残念ながら日本の製薬企業が外資系製薬企業以上に良い薬を市場に出せていないからです。この制度下では、市場でのポテンシャルの高い薬(=良い薬)ほど薬価が削られる可能性が高いことになります。これを続けていると、革新的な新薬が日本に上市するインセンティブになりにくいわけです。ですからこの制度をまずは見直さないといけないと考えています。

日本の薬価は誰が決めるのか

それではなぜこの制度が導入されたかと言えば、膨らむ薬剤費を少しでもカットしたいという思惑からです。厚労省的には売上の小さい薬をたくさん評価するより、売上の大きな薬剤をたたいて一気にカットする方が楽だからでしょう。こうした評価の仕方に疑問を感じないのは、評価を担当する中央会保険医療協議会(中医協)のメンバーに、薬の研究開発を理解できる代表が少なく、保険組合その他、医薬品を使用する側の代表がほとんどであることが理由だと思います。中医協の審議にかかわるメンバーがどのように決められているのかも、個人的には長年の謎でした。政治家として、是非切り込みたいトピックです。

それから最近の薬剤費の高騰には、希少性疾患と呼ばれる高額な難病の薬の影響もあります。これまで治らなかった病気が治るようになるのは良いことですが、億単位の薬価のものもあります。ジェネリック医薬品の使用で製品当たり数十円、数百円単位の薬剤費を節約する一方で、億単位の薬剤をドーンと同じ医療保険のお財布の中で使用するのは、適切なのか疑問です。希少性疾患の薬剤は通常の医療保険とは別の財源にし、富裕層からの寄付なども募ることができるような仕組みにしてはと個人的には考えています。

後発品の薬価

日本のジェネリック医薬品の薬価は諸外国に比べ実は安くありません。また私はジェネリック医薬品の原薬メーカーで仕事をしていたこともあるのでよくわかるのですが、日本のジェネリック原薬は世界で一番高いと言われています。それはずばり日本のジェネリック医薬品の製造バッチのサイズが小さいからです。

原薬を小口で購入するから値引き交渉ができず、その小口の原薬を、商社のマージンを上乗せした価格で購入するのでさらに高く、それを日本に輸入して小分け業者がさらにマージンを乗せて分割して販売するのです。そしてその高い原薬を小ロットで製剤にするので製造コストが高いのです。それでも利益が(昨今少なくなっているでしょうが)でる薬価が、日本のジェネリック医薬品の薬価というわけです。

何年か前、某大手のジェネリック製薬企業が米国に進出しようとしましたがうまくいきませんでした。それは日本のジェネリック医薬品が高額だからです。いくら高品質でも全く競争になりません。

ただジェネリック医薬品の高コスト構造の理由はわかっているわけですから、それを解消することで、同じ薬価でももっと利益が出るようになるのではと私は考えています。

後発品に求められるのは、品質&安定供給

現在日本のジェネリック医薬品は、一製品に対し10社以上から製品が上市されているものがたくさんあります。今はたくさんのジェネリック製薬企業が、たくさんの製品をそれぞれの製品に対し、数%のシェアで持っているイメージです。私は思い切って、一製品当たりのジェネリック製品を2-3社に限定し、各企業が抱える製品数を減らすべきと考えています。そうすることで、

1)メーカーあたりのシェアを上げる&数量アップすることがでる

一社当たりの製造量を上げることで、原薬メーカーとの価格交渉を有利にすることができますし、規模の経済で製造単価を下げることができます。

2)製品の品質管理や原材料の調達にもっと注力できる

一つの製薬企業で200品目ぐらい製造していると、それぞれの製品の品質管理が大変になります。東日本の震災以降、厚労省は原薬の入手先や製造拠点をリスクヘッジのため複数にすることを奨励しています。ですが品目が多すぎてとても個別の原材料を複数拠点から調達するような仕組みを構築できません。製品数を絞ることで、自社製造する製品にもっと責任を持たせ、安定供給を徹底してもらうことができるでしょう。品目が多く、すべて管理しきれないからこそ品質の不正などが発生すると考えます。

もちろんシェアを失う製品も出てくるので、それを他の製品でどこまで売上をカバーできるのか、どうやって製品ごとのプレーヤーを決めるのかは議論が必要でしょう。大事なのは業界の人たちとどんな制度が企業と社会のために良いか、話し合いを持つことだと考えています。

ジェネリック医薬品が整理されれば、病院や薬局で管理する薬剤の種類も減るため、医薬業界全体として管理コストの圧縮につながると思います。

薬局のサービスに関すること

それから薬局と言えば、私個人の考えとして、医療にかかわるサービには消費税を適用しないような制度も検討して欲しいと考えます。日本の消費税は10%(軽減税率8%)ですが、諸外国の場合、もっとずっと高い消費税率の国でさえ、食品、教育、医療については消費税なしが多いです。最近食品については消費税をなくすという案もちらほら出ていますが、教育や医療にも是非適用してはと思っています。

薬局業務と言えばもう一つ、私がカナダから戻った2002年はジェネリック医薬品の置き換えが積極的に始まった年でした。ですが薬剤師が、薬のいわばダウングレードを患者に勧め、うまくいったら国から報奨金(今はなくなりましたが)というシステムはおかしくないでしょうか?やるなら皆保険では一律ジェネリック医薬品で処方し、薬剤師が患者に説明して先発品に変えられたら先発企業から薬局がリベートをもらうというのが理想ではと、営業の仕事が長い私は思っています。

ジェネリック医薬品と先発医薬品の差額は患者のフトコロからというのは、医療保険財政が厳しい今の時代は当たり前と個人的に思っています。日本のように先発品を皆保険でじゃんじゃん処方する(していた)国は他にないと考えます。

その他健康保険制度についても、最近の外国人の問題も含め、いろいろアイディアがあるのですが、長くなりそうなので今日のところはここまでとしたく思います。