フリーランスとインボイス制度

今日はインボイス制度について考えてみたいと思います。

国民民主党はインボイス制度廃止に向けて活動しています。勤め人にとっては、インボイス制度の何が問題なのか、よくわからないと思います。

私は長らくフリーランスのコンサルタントとして活動しており、他人事ではありません。2006年にフリーランスになってからいろいろ試行錯誤を重ねてきました。ですからフリーランスの抱える悩みは一通り経験しています。

今回は最近導入されたインボイス制度について簡単に説明するとともに、今後制度がどうあるべきか書きたいと思います。

フリーランス税制

私は2006年に会社員をやめるまで、どんな税金がどんな算定基準で計算され、自分の所得からいくら引かれているのか、実はよくわかっていませんでした。フリーランスになって初めて、所得税、住民税、事業税という税金の他、社会保険料の負担がどれほど大きいか、思い知ることになりました。

フリーランスは個人事業主として活動するケースと、法人を設立して活動するケースがあります。法人を設立した場合、上記の税金の他、法人税などの支払いも発生します。ですからある程度の売上規模がないと、法人化は検討されないでしょう。もちろん、法人の方が社会的信用があるからといった理由で法人化する事業者もいますが、それでも個人事業主として始める方が多いでしょう。

個人事業主が払う税金

個人事業主が払う税金は、基本的下記の式で算出される所得金額に基づいて計算します。

売上金額 ー 事業にかかった経費 = 所得金額 です。

この所得金額から社会保険料などを控除した後の金額を基準にして所得税や住民税、翌年度の社会保険料が決まります。

よく個人事業主はなんでもかんでも経費にして、所得を少なく申告し、税金を払わないようにしていると指摘する人もいますが、個人事業主が給与所得者に比べ得だとは言い難い面もあります。

個人事業主にない控除

給与所得者は、給与の金額から給与所得控除(上限1,950,000円)が無条件で差し引かれ、残りの金額から社会保険料などを控除します。個人事業主の場合、この給与所得控除がありません。事業の内容にもよりますが、この給与所得控除を超える経費は、私のようなコンサルティング業では現実的ではありません。

勤め人からすると、個人事業主は経費を引けるのだから、給与所得控除で経費相当分を控除して当然と考えるかもしれません。一方の個人事業主から見ると、給与所得者の経費(しかも領収書も何もなくても認められる)とは一体何?となるわけです。

もっとも、この給与所得控除も最近改定になり、以前より金額が減らされ、同じ所得でも所得税はじわじわ増えています。有権者の皆さんは、103万円の壁だけでなく、このあたりも注目しなくてはいけないですね。

消費税の免税業者とは?

話を元に戻すと、個人事業主の売上金額が1000万円を超えると、消費税の支払いが生じます。現在、売上が1000万円以下の事業者は「免税業者」となっているのですが、これがインボイス制度の施行により実質「免税業者」でなくなる場合があるというのが、インボイス制度の問題点です。どういうことか、次に例を挙げて説明したく思います。

消費税の計算方法

免税業者の消費税の計算

個人事業主Aの売上は660万円です。売上にかかる消費税額は60万円です。
また消費税込みの経費は220万円(経費200万円、消費税20万円)とします。

この場合、支払う消費税額は、

60万円 ー 20万円 = 40万円   です。 

免税業者というのは、この40万円の消費税の支払いが免除になるということです。

取引先の消費税計算

消費税の計算を、個人事業主Aの取引先である法人Bについて考えてみます。
法人Bの売上は3300万円であり、免税業者ではありません。

法人Bの経費は、1100万円(経費1000万円、消費税100万円)です。この場合、売上にかかる消費税額(300万円)から経費にかかる消費税額(100万円)を引いた金額である200万円が納めるべき消費税額です。

300万円 ー 100万円 = 200万円  です。

インボイス制度導入の影響

ところが制度導入後、この消費税のうちインボイス登録していない事業者との取引による、経費にかかる消費税は、上記の計算に含めてはいけないことになりました。

個人事業主Aがインボイス登録をしておらず、法人Bが、個人事業主Aから預かった消費税額が30万円とすると、法人Bが納めるべき消費税額は、

300万円 ー (100万円-30万円) = 230万円 となります。

法人Bとしては、個人事業主Aがインボイス登録をしていないというだけで、支払う消費税額が増えてしまいます。したがって、法人Bは、

1.個人事業Aにインボイス登録をしてもらい、経費にかかる消費税の控除ができるようにする 

あるいは

2.インボイス登録をしている別の事業主と取引をする

ということになります。

その結果、個人事業主Aはインボイス登録をするかどうかの選択を迫られることになります。そして個人事業主Aが、インボイス登録をした場合は、免税業者であっても消費税の支払い義務が生じます。

ただ小規模事業主が、取引先にインボイス登録の選択を迫られるかどうかは、どんなビジネスをしているかによっても状況は違います。個人事業主がいわゆるB to Cビジネス(個人を相手にするビジネス)である場合、インボイス登録はおそらく不要であり、事業に大きな影響がありません。

ですが例えばコンサルティング業のような、法人同士で契約をしているような場合(B to B)、影響が大きいです。免税業者であるということは元々売上が少ない小規模事業者ですから、インボイス登録による消費税の支払が生じると生活が立ち行かなくなるケースもあるかもしれません。

長らく個人事業主をしてきた立場としては、免税業者として免税された消費税金額以上に、個人事業主には社会保険料負担が重いですし、しかも勤め人にある給与所得控除がなく、事業税という別の税も納めなくてはなりません。

近年は企業も、正社員ではなく請負や業務委託契約を増やしており、おそらく影響がある小規模事業主は非常に多いと考えられます。またコロナ以降はフリーランスとして働く人が増えました。

昨年12月には、埼玉県議会で、なんと自民県議団が主導し、インボイス廃止求める意見書が可決されました。

インボイス廃止求める意見書、自民県議団が主導し可決 埼玉県議会

原材料費などの高騰を受け、小規模事業者は以前に増して利益が出なくなっています。景気が冷え込んでいるところに、小規模事業者の経営が成り立たなくなれば、社会保障制度の維持ももっと厳しいものになります。

結語

インボイス制度は廃止するのが妥当だと考えています。