今回は「日本の少子化とその対策」について、少し踏み込んだ視点から考えてみたいと思います。
少子化の現状と社会への影響
日本の出生数は2016年に100万人を割り込み、2024年にはついに70万人を下回りました。これは社会の根幹を揺るがす深刻な課題です。
政府はようやく本腰を入れて少子化対策に取り組み始めましたが、その方向性は果たして本質を捉えているのでしょうか?
子育て支援は少子化対策になるのか?
政府は「子育て支援」を少子化対策の柱としていますが、これは「結婚した人がより多くの子どもを持つ」ことを前提にしています。
しかし、1970年代以降、結婚している夫婦の子どもの数は平均2人前後でほとんど変わっていません。出生率が下がった主因は、そもそも結婚する人が減っている「非婚化」にあります。
つまり、支援金を増やしても、晩婚化が進む中で結婚したカップルが今以上に子どもを増やす可能性は低いでしょう。とはいえ、これから結婚・子育てを考える若い世代にとって支援があることは重要です。
東京商工会議所の2024年の調査では、非婚化は年収と強く相関しており、低収入・非正規雇用の若者ほど結婚に消極的な傾向があります。収入が上がることで結婚意欲が高まり、子育て環境の整備が出生意欲にもつながることが分かっています。
非婚化・晩婚化の背景にある価値観
非婚化の背景には、若い世代の給与の伸び悩みや手取りの少なさがあります。
「女性の高学歴化が婚姻率の低下を招いている」という見方には、私は懐疑的です。むしろ問題の本質は、従来の日本社会において男性が「下方婚」を望み、自分より学歴や収入の高い女性との結婚を避ける傾向にあったことではないでしょうか。これは、家事や育児の負担を女性に一方的に押し付けるために、相手の経済力を口実にしてきた構造的な問題とも言えます。
また、離婚後に養育費を支払う義務があるにもかかわらず、実際に支払いを行っている日本人男性はわずか2割程度にとどまっており、これは先進国で常に最低です。家庭における責任感の欠如が浮き彫りになっています。
また、社会人になるまで母親に、結婚後は妻に身の回りの世話を任せなければ仕事ができないという男性像に合わせて、日本社会は長らく「実質二馬力」で働く男性を前提とした労働環境を構築してきました。その結果、家族の支援を受けられない未婚者や、特にシングルマザーが働きにくい状況が生まれています。
こうした構造的な問題に対し、上智大学の三浦まり教授は、日本の男性の多くが家庭内ケアを他者に依存していることを指摘し、「ケアただ乗り男」と厳しく批判しています。
一方で、20代・30代の若い世代では価値観が変化しており、共働きを前提に家事・育児を分担したいという意識が強まっています。
東京商工会議所の調査でも、年収が高い男性ほど相手にフルタイム就業を希望する傾向があり、専業主婦希望の女性は今後結婚が難しくなる可能性が高いと考えられます。
政策決定者との世代ギャップ
現在の少子化政策を担っているのは、私の世代(50代)以上の男性が中心です。
「女性は専業主婦で十分」「家事や育児は女性がやるもの」という価値観が根強く残っており、現実に即した政策が打ち出せていないのが実情です。
Z世代や女性がもっと政策決定に関わることで、これから子どもを育てる世代に寄り添った制度設計が可能になるはずです。経営層や国会議員における女性比率の向上は、出産後の社会復帰を支える政策にもつながるでしょう。
歴史からの教訓
古代ローマ帝国も少子化と非婚化に悩み、子どもを持つ人を優遇する政策を導入しました。独身税や相続権の制限などもありましたが、結局問題は解決せず、帝国は滅亡しました。
最近の選挙で議席を伸ばした政党が「大学に行かず早期に結婚・出産し、その数が給料や年金に反映される制度」を提案していましたが、現代の職場で子どもの数を評価軸にするのは現実的ではありません。
また、豊かになった国ほど少子化が進むのは先進国共通の課題です。OECD加盟国で出生率が人口維持レベルを上回っているのはイスラエルのみですが、そこでも高出生率は、ユダヤ教の超正統派の一部のグループの出生率が突出して高いなど、宗教的背景によるものです。
今後の対策と制度改革の提案
少子化対策として、若い世代の経済的不安を解消し、子育てがキャリアの障害とならない社会環境を整えることが不可欠です。具体的には以下のような制度改革が必要です:
- 若者世代の税・社会保障負担の軽減による手取りの増加
- リモートワークなど柔軟な働き方の推進と、それに対応した人事評価制度の整備
- 男性の育児休暇取得の促進(育児を女性だけの負担にしない)
- 賃金の男女格差の是正(育児離職の防止)
- 育児離職後の正社員復帰制度の構築(パフォーマンス重視の評価)
- 大卒文系ジェネラリストから専門職養成への教育制度の見直し
日本の雇用慣行は、もともと工場労働者向けに設計された仕組みを事務職にも適用しており、事務職の実態に即した評価制度とは言えません。今後、AIの導入が進むにつれて、事務職はより専門化され、ジョブ型雇用による評価制度への移行が加速するでしょう。
これまでのように、新卒でジェネラリストとして採用され、社内で様々な部署を経験しながら社内政治に長けることで昇進するという日本企業特有のキャリアパスは、今後ますます通用しなくなります。これからの時代は、仕事が高度に専門化され、個人が特定分野で専門性を磨きながらキャリアを築くことが求められます。
そのような環境では、「大卒かどうか」よりも「どのような専門性を身につけているか」が重要になります。企業が求めていない学問に4年間費やすよりも、専門学校などで早期に資格を取得したり、興味のある分野を深く学び続けた人の方が、キャリア上の優位性を持つ社会になるでしょう。また、早期に社会に出ることは、結婚や出産のタイミングを柔軟に選べるという点でも重要です。
企業がジョブ型の評価制度を徹底すれば、「同一労働同一賃金」の導入も現実的になります。育児などで一時的に職を離れても、専門性に基づいて元の職務に復帰しやすくなり、これまでのように育児後の女性が最低賃金のパートタイムにしか就けないという状況も改善されるでしょう。
今こそ、専門性を持つ人材の育成と、成果に基づく公平な評価制度の導入が急務です。
結びに:未来を担う世代へ
少子化は社会保障制度、雇用制度、教育制度、そして政策決定の構造そのものに関わる問題です。
例えば、
- 年金制度は現役世代が高齢者を支える「賦課方式」。現役世代が減れば制度維持は困難になります。
- 自衛隊など若い人材が不可欠で、かつ外国人が働くことができない国防などの仕事では人材確保が難しく、安全保障にも影響します。
- 地方では若年女性の流出が顕著で、都市部では逆に女性が余るという非婚化の二極化が進行中です。
若い世代が政治に参加しなければ、制度は変わりません。将来が見通せず、負担ばかりが重くなる中で、結婚や出産をためらうのは当然です。
この悪循環を断ち切れるのは、未来を担う若い世代自身です。高齢者は自分たちの権利、医療サービスや年金など、これまで通りに維持したいのですから、増税しか考えられません。本当に現状維持が必要なのか、それが正しいのかも含めて、これからの世代が異議を唱えないと何も変えられないでしょう。
安心して結婚・出産・子育てできる社会をつくるために、私たち一人ひとりが声を上げ、制度を見直していくことが求められています。

