今後の経済政策に関する私見

今回は専門家の視点ではなく、一国民としてこれからの日本経済が抱える課題と、私たちが考えるべきことをわかりやすく整理してお伝えします。

要点まとめ

  • 新政権は金融緩和を継続する可能性が高いが、その効果に疑問が残る。
  • 市場に流れた資金が金融資産に偏り、実体経済(賃金・消費・設備投資)に回っていない。
  • 円安進行は輸入物価を押し上げ、家計の実質負担を重くするリスクがある。
  • 単なる低金利政策だけでは不十分で、制度・行動を変える具体策が必要。

なぜ金融緩和だけでは届かないのか

金融緩和は日銀が金利を下げ、市場に資金を供給して投資や消費を促す仕組みです。しかしここ30年で次の変化が起き、結果として資金が実体経済に回りにくくなりました。

新内閣は安倍政権と同じように低金利路線を続ける可能性が高いと見られます。ただ、安倍政権が金融緩和を始めた時、日本はデフレの真っただ中にあり、1ドルは80円でした。今はほぼ倍の150円になっており、同じような金融政策を取ると家計は苦しくなるのではないでしょうか?個人的には円安のコントロールが重要であると考えています。

銀行の行動変化

低金利が長く続いた結果、銀行は「国債を買って儲ける」やり方に慣れました。国債はリスクが低く、手間も少ないため、銀行は中小企業への貸出を控えるようになりました。結果として、現場の中小企業が投資資金を得にくくなっています。また銀行が購入した国債を日銀が買い取ることで、銀行には貸出金が増えるはずですが、このお金が実際には企業に貸し出されないことが日本の問題であるわけです。

企業の行動変化

企業は失敗を避けるために、新しい投資よりも短期的な利益を追うために、コスト削減や賃金抑制を選ぶ傾向が強くなりました。内部留保(企業が手元にためたお金)は増える一方で、配当性向(純利益に占める配当の割合)は上昇し、従業員賃金に回す資金が相対的に小さくなっています。企業が利益を株主還元に回す割合が増え、現場の賃上げにつながりにくくなっているのです。

家計の行動変化

余裕のある層は資産(株・債券・不動産)へお金を回し、消費に結びつけにくくなっています。低所得層は実質賃金が伸びず、生活費の負担が重くなっています。
具体的には、エンゲル係数(家計支出に占める食料費の割合)は2024年に約29%と、1980年以降で最大水準に達しました。1980年代から緩やかに下降していたエンゲル係数は2015年をさかいに急上昇しているのです。つまり2015年以降、国民の生活が苦しくなっていることを示すわかりやすい例です。

エンゲル係数が過去43年で最高域

日本のエンゲル係数は先進国で「圧倒的1位」28%超…今後も「食費率」が上がり続ける物価高以外の2つの根本理由


これらが重なると、いくら市場にお金を流しても「誰に」「どこに」届くかを設計しなければ実体経済は改善しません。

円安と物価の問題

長期の低金利は為替面で円安を招きやすく、円安は輸入物価上昇を通じて家計を直撃します。日本のGDP構成を見ると個人消費の割合が大きく、輸出主導の政策だけでは家計負担を軽くする効果は限定的です。円安が進むほど実質所得は圧迫され、消費が冷え込むリスクが高まります。

ちなみに日本は輸出大国であるというイメージを持っている方が多いと思いますが、実は日本経済は内需によって支えられています。GDP構成で見ると、個人消費が約53.5%と最も大きく、民間企業の設備投資は約16.7%、輸出はごく小さく0.5%程度の寄与です。つまり、輸出が伸びてもGDPには限られた影響しかありません。輸出重視の政策だけでは、家計の負担を減らすことにはほとんどつながらないのです。

【GDP入門⑥】日本の実質GDPの内訳比較(1994年・2024年)   個人のブログから引用

アメリカと世界の影響

世界経済も安定していません。アメリカはコロナ後、大量の財政支出と金融緩和で物価が上がり、2022年ごろから一気に利上げを行いました。金利は0.25%から2023年7月に5.5%近くまで上がり、その後は少し下がって現在は4%台です。

高金利は借金返済を重くし、家計の負担を増やします。実態としてアメリカでは食料やエネルギーの値上がりが賃金の伸びを上回り、生活が苦しくなっている人が増えています。クレジットカードのリボルビング払いや分割払いの利用が増え、債務が膨らんでいる点も世界の不安要因です。米国のクレジットカードの債務残高は現在、1.2兆ドル近くあり、米国の国家予算の17%近いです。

米国議会で予算が成立せず、政府機関の一部閉鎖が長引く中、低所得者向け食料購入補助制度「フードスタンプ(SNAP)」が11月1日から一時停止となり、4200万人が影響を受けると言われています。庶民の暮らしはますます厳しくなる一方ですが、株価は半導体やAI関連の銘柄を中心に上昇が止まらず、過去最高を記録しています。持てる人と持たざる人の格差がますます広がり、社会不安のもとになっています。

こうした米金融政策の変化や地政学的リスクは、資本の流れを通じて円安や日本の資産価格に影響します。加えて株高であるにもかかわらず、金(ゴールド)の買い付けが増えているなど、これまでとは違う動きも観察されています。金価格の上昇は、世界の決済通貨である米ドルの価値が今まで以上に棄損していることを表しています。ドル指数という主要通貨バスケットに対する米ドルの価値を示す指標がありますが、今年1月から10月まで米ドルは8.94%下がり、ドルが弱まったことを示しています。その弱ったドルに対して、日本円は更に安くなっており、日本経済の脆弱性を表しています。

社会的マインドと制度の問題

日本では企業が人件費を過剰に抑える文化があり、消費者も価格に敏感です。企業がコストを価格に転嫁して値上げすることに抵抗があるため、賃金を上げにくい構造が続いています。制度や慣行を変えなければ、金融緩和の効果は出にくいという点を強調したいです。

問題解決のための一般的な政策案

ポイントは「量」ではなく「流れの向き」を変えることです。短期〜中期で実行すべき施策を整理します。

短期(1年以内)

  • 低所得層への直接支援:現金給付や食料支援で生活の下支えを行う。
  • 中小企業向けターゲット融資:設備更新やDX化など投資用途に限定した低利融資や信用保証の拡充。
  • 重要輸入品の緊急対応:食料・エネルギーの価格抑制策や関税見直しの検討。


中期(2〜5年)

  • 投資誘発税制:設備投資・研究開発に対する税優遇で内部留保の投資回帰を促す。
  • 労働市場改革:最低賃金引上げ、業界別賃上げ支援、非正規処遇改善などで賃金底上げを図る。
  • 金融機能の再構築:地域銀行や与信制度を見直し、中小企業への貸出を回復させる。
  • 競争とイノベーション促進:規制緩和やスタートアップ支援で新たな産業と雇用を創出する。

リスクと注意点

円安が行き過ぎるとエネルギー・食料価格の上昇で暮らしが厳しくなります。ガソリン税の暫定税率の廃止があっても、そもそもの輸入価格が高いのであれば価格は高止まりです。

海外資本の大量流入は企業の意思決定や雇用に影響を及ぼす可能性があります。重要土地や戦略的資産については迅速な対応が必要です。

短期的な財政出動は有効でも、中長期の財政健全性とのバランスをとることが重要です。

結語

金融緩和は政策手段の一つですが、それだけで賃金も消費も向上しません。銀行の貸出習慣、企業の投資行動、家計の消費マインドを変えるための制度設計と具体策が不可欠です。短期の生活支援と中期の投資・賃金誘発策を組み合わせて、流動性が実体経済に届くようにすることが肝要だと考えます。もちろん為替のコントロールも重要です。

経済は一見専門的で難しそうにに見えるかもしれませんが、生活に直結する話題ですので、私たち一人ひとりが関心を持ち、積極的に議論に参加することが必要です。ぜひ一緒に考えていきましょう。

新政権には迅速な対応を期待しています!