頭脳流出と賃金UP

今日はまだ6月だというのに、脳みそが溶けるかと思うような暑い一日でした。

脳みそといえば、かなりこじつけではありますが、頭脳流出についてお話したく思います。

昨日のブログでは、アメリカと日本で研究者の給与相場にかなりの違いがあって、アメリカで研究生活を送ろうとする日本人研究者もいるというお話でした。日本人は語学が苦手だから海外で仕事をしている人は、日本の会社の駐在員くらいと思っていませんでしょうか?確かに今まではそうだったかもしれません。でも今は、英語が得意な若者は確実に増えているのです。医薬関連の研究者は元々最低でも英語の読み書きはできないといけないですし、海外移住のハードルはかなり低いです。

私は一時期同時通訳の学校に通っていた時がありました(挫折しましたが)。その時、学校の創設者で有名な同時通訳の方が、昔は英語を話す外国人がいると聞けば、カセットレコーダー(死語?)片手に飛んでいき、なんでもいいからしゃべってくれとお願いして音声を録音し、テープが擦り切れるまで聞いたと。そう、昔はネイティブが実際に話すところなんか、なかなか聞ける機会はありませんでした。だから日本人は外国語が苦手でした。

今はインターネットがあればネイティブの発音なんて、ど田舎のかなりなまった英語から、都会のハイソな英語、労働者階級から貴族の英語まで、ありとあらゆるシチュエーションでいくらでも聞くことができます。しかもネットには、文法を懇切丁寧に教えてくれる人も、学習のやり方を教えてくれる人もたくさんいます。今は語学ができるかできないかは、やる気の問題です。ちなみに私はインドの会社と仕事をしていますが、昔のインド人の発音は特有のなまりがあって非常に聞き取りにくかったです。ですが若い世代は、かなりアメリカ英語に近いです。Netflixとか、毎日見ているのかもしれません(笑)

と、余計な話が長くなりましたが、日本人は戦後、海外移住をあまりしなくなりました。戦前は新天地を求め、主に農業や漁業などの労働者としてたくさんの日本人が海を渡りました。戦後、海外移住が減ったのは、もちろん日本の生活水準が他の地域より相対的に高くなったからに他なりません。日本にいた方が、より豊かな生活ができたからです。

昨日のブログでは、医薬の研究者の給与水準は、現在アメリカと日本で2倍くらいの開きがあるとお話ししました。しかもアメリカの研究環境がいいとなれば、移民する人がいても不思議ではないと思いませんか?戦前の日本人移民は、家族で移民して土地を開拓したので、現地の言葉はできなくても問題はありませんでした。研究者は結果を英語で報告できれば評価してもらえます。それは日本でもやっていることです。アメリカは常に高度な技術や技能を持つ人を歓迎しているので、特定の技術や技能を持っている日本人には、移民のチャンスがあるわけです。それはIT技術者なども同じかもしれません。

私はアメリカに留学した後、カナダの大学にも滞在していたことがあります。そこで気が付いたのは、カナダの大学院の学生のほとんどが留学生ということと、かかりつけ医(General Physician =GP)と呼ばれる人が、ほぼ中国人またはインド系の移民ということです。

カナダは地理的にアメリカのお隣にあり、言葉も英語で共通しているので、カナダ人はアメリカ(または英国)で働くことに抵抗がありません。カナダの場合、民間企業があまりなく、病院は公立でスタッフは公務員なので、お給料はあまり高くありません。ですから、優秀な医療スタッフほど、より高い賃金と良い労働環境をもとめ、アメリカに行こうとするわけです。そのためカナダも慢性的に医療スタッフが不足しており、常に待遇改善を求めてストライキをしています。その対策として、カナダは医療スタッフの需給ギャップを移民で埋めています。それがGPの多くが中国系、インド系になる理由です。

カナダでは、医師や看護婦などの医療スタッフは、英語圏の先進国からの移民であれば本国のライセンスでそのまま、非英語圏の先進国であればカナダの国家試験をパスすれば働くことができます。それ以外の地域から来る移民は大学の課程からやり直しです。ですので、大学院は仕事を得るためにカナダの学位を取ろうとする人が多くなります。また優秀なカナダの学生は米国の大学院に進学し、普通のカナダ人は勉強が好きではなく、大学院に行ってまで勉強しようとは思いません。

日本の場合は言葉の問題があり、医療スタッフが不足していても、それを移民で補うことはしてきませんでした。ですが介護労働者については、一時期外国人もという話になりました。にもかかわらず、日本の受け入れ基準があまりにも厳しく、うまくいきませんでした。また日本の介護労働者の給与水準が、元々かなり低いことに加え、円安が進んでいますので、日本で介護の仕事をしたいという人はなかなか見つからないでしょう。特に介護労働者は、世界中で不足しており、先進国の間で取り合いになっています。日本の賃金水準が低いということは、外国人労働者にとっても、日本は魅力的ではないということです。

円安に関しては、いい円安、悪い円安と、意見が分かれるようですが、賃金水準が他の先進国に比べて低いのは、これから深刻な頭脳流出を起こすことになると考えています。一刻も早く賃金UPを目指すべきと思っています。