介護職の待遇について思うこと その②

私のブログの中では、「介護職の待遇について思うこと」が、一番反響がありました。コメントもいくつかいただいたので、続編を書こうと思います。

私の母は介護保険制度が始まる前から介護の仕事をしていました。病院などで、特定の患者さんのご家族に個別に介護を頼まれて引き受けるというやり方でした。当時こうした個人事業主的な立場で介護の仕事をされていた方は多くいました。介護の仕事は大変ですが、報酬は決して低くなく、日当にして2-3万円だったと思います。一回に1人だけ面倒を見ることもあれば、同じフロアの患者さん複数を受け持つこともあったと思います。基本的にせいぜい3人くらいまで一度に面倒を見るという感じではなかったかと思います。ですから月に何日仕事を請け負うかにもよりますが、少なくとも現在の介護職の平均年収よりも多かったと記憶しています。

その後介護保険制度ができて状況は一変しました。保険制度導入前にも、介護ヘルパーの資格を持ってお仕事されていた方がたくさんいましたが、保険制度の導入とともに介護福祉士の資格が新設され、文科省管轄の介護福祉士の資格が優先されるようになりました。それまで介護ヘルパーとして長年仕事をし、経験も長かった人たちが突然新卒の介護福祉士の下に配置されることになったのです。そして介護保険制度導入と同時に、報酬も大幅に下がりました。報酬が下がった理由としては、それまで患者さんやその家族と直接取引していたのが、患者との間に保険制度、行政、施設が入り、中間マージンを取られるようになったこともあります。

もう一つの理由は介護報酬が低く抑えられたことです。単純に考えて、それまでヘルパーさんがもらっていた報酬を維持するには、中間搾取分を上乗せした介護報酬が必要なわけですが、現実には介護報酬はそれまでヘルパーさんたちがもらっていた報酬より少ないわけですから、下がるのは当然です。

一方で現場のことがまだよくわからない新卒が現場で介護現場を指揮しなければならない立場になりました。介護福祉士の第一期生のなかには、ノイローゼになるような方もたくさんいました。現場は本当に大混乱でした。私の妹は介護福祉士の第一期生だったので当時の混乱についてはよく耳にしていました。

そして報酬だけでなく、労働環境も大幅に劣化しました。それで迄はせいぜい、ヘルパー1人で2、3人の患者を見るのが普通だったのに、一度に数十人、夜勤でもワンフロア全員を担当などということが日常的になっていったと記憶しています。介護が必要な患者は1人でも見るのは大変ですから、それを同時進行で何人も見るというのは現実問題不可能です。それもあって離職者が後を絶たず、日本の介護現場も慢性的な人手不足になりました。

あまり書きたくはないですが、徘徊して手のかかるような患者は、徘徊しないように向精神薬で常に眠らせておいたり、ベッドに縛り付けたりというようなことも珍しくありません。それで人間の尊厳が保てるのか、と憤る方もいるかもしれませんが、介護する側の尊厳も必要です。その方一人のために、介護する側の人間が何人も犠牲になることは無視していいのでしょうか。最近であれば、安価な外国人労働者なら、犠牲にしていいのかということがあります。

家族はその状態がいやなら、その施設に患者を入所させず、自宅で介護する道を選ぶしかありません。そのような事情を知りつつも黙認している人が多いと思います。家族にも生活があり、面倒が見られないから施設に預けるわけです。お金があればもっといい施設に入れられるかもしれません。でもない袖は振れません。そこにいてもらえないと、家族も路頭に迷うことになるわけです。

もう一つ、介護サービスの企業が介護に参入するようになって、明らかに介護労働者の報酬が下がったと記憶しています。企業は利益を追求しますから、利益の上がるサービス以外はやらなくなるでしょうし、できるだけ効率化しようとします。効率化の一つが賃金の抑制であり、1人が分刻みで何人も担当するというような、効率を限りなく追求したオペレーションです。

昔、都市計画の仕事をしていた私の高校の後輩が、六本木ヒルズにテナントの調査に入ったことがありました。「介護サービスの会社が六本木ヒルズに入っている。絶対おかしい」と。それは介護のような利益率の本来低いはずの企業が、家賃の高い六本木ヒルズに入れるのは、何らかの不正な操作があるからだと。間もなくして、介護サービス企業だった「コムスン」が、介護報酬の不正請求などが発覚し倒産しました。後輩が指摘していた会社でした。介護保険には、このような不正が可能な構造があるのではと思っています。

介護労働については、介護報酬の引き上げはもちろん、その引き上げた報酬が介護労働者の報酬となるような対策が必要と思っています。岸田内閣が実施しようとしている、看護や介護労働の引き上げ(月9000円)も評価しますが、まだまだ全然足りないと感じています。私は最初月9万円で、報道各社が一桁間違ったのかと思っていました。

また船員や炭鉱労働者などは、再就職支援や、年金受給に関し、その他一般の仕事に比べ手厚くなっていますが、介護や看護、保育など、人手不足の業種に対しては賃金以外の社会保障制度について手厚くする制度も検討すべきとも考えます。

あるいは、これは私の友人と話しをしていて考えついたことですが、国民すべてが一生に一度は1年間、介護の仕事に就くことを奨励し、そのための介護労働休暇を自由に取れるようにしてはどうかと。ドイツで昔徴兵制度があったとき、徴兵に行きたくない人は介護労働の仕事に就くことが義務になっており、介護労働の不足を補っていました。義務化は難しいかもしれませんが、誰でも1年は介護の仕事に就くことができ、お給料も国から支給されるようにしてはと。そして希望者はそこで資格をとり、継続して仕事ができるようにする。

ドイツは現在、徴兵制度が廃止され、介護労働に就く若者が減り、代わりに外国から介護労働者を大量に迎えています。ただし日本と比較してはるかに条件がいいので、私が外国人介護労働者なら、迷わずドイツに行くでしょう。最近日本人のYouTuberの方で、実際にドイツで看護師をされている方が、ドイツで日本人が看護や介護の仕事をどうやって得るかというチャンネルを開設されています。そのうち日本人看護師も介護士も、海外を目指すようになるのかと思いました。

とにかく、現在の介護職の待遇を変えないと、日本の介護労働者不足は解消されないと考えています。技能実習生では到底解決できないと考えています。