最近の製薬業界動向から

今日は「最近の医薬品業界で起こっていること」というテーマで、特に重要だと感じている3つのポイントについてお話しします。

  1. イラン情勢が医薬品原料に与える影響
  2. オーソライズドジェネリック(AG)をめぐる政策変更と市場再編
  3. 高額療養費制度の改定と、日本の医療財政が抱える構造的な問題

どれも医薬品業界だけでなく、医療を受けるすべての人に関わるテーマです。

1.イラン戦争と医薬品原料の高騰

最初のテーマは、イラン情勢が医薬品に与えている影響です。イラン戦争そのものが供給を止めているわけではありませんが、原油価格の上昇と物流の不安定化が、医薬品の製造コストに直結しています。

原油価格の上昇は医薬品コストに直結する

医薬品の多くは石油化学製品から作られています。たとえば、

• 原薬の合成に使う化学品
• 溶媒
• 包装材(ブリスター、フィルム、ボトル)
• 工場のエネルギーコスト
• 物流コスト

これらはすべて原油価格に依存しています。ホルムズ海峡が不安定化すれば原油価格が上がり、結果として医薬品の製造コストも上昇します。

イランは日本に対して友好的で、船舶の通行を妨げてはいませんが、日本側が米国の意向を気にして通過をためらった時期もありました。今の日本に、外交的な「遠慮」をしている余裕はないのではないかと感じています。

触媒に使う重金属の高騰

さらに深刻なのが、医薬品合成に不可欠な触媒金属の価格上昇です。

• 白金
• パラジウム
• ロジウム

イラン戦争と直接の関係はありませんが、世界情勢の不安定化やドル安を背景に、各国が金を買い増しており、金につられて他の貴金属も値上がりしています。

ジェネリック医薬品はもともと利益率が非常に低いため、触媒金属が上がるだけで採算が取れなくなる原薬が多いのが現実です。

実際に起きている「製造撤退」

私の仕事でも、最近こんなことがありました。あるお客様から、「長期収載品の原薬を、あなたの会社で製造できないか」と相談を受けました。

しかし試算すると、薬価から期待する製造コストが低すぎて、インド企業でさえ採算が合わないのです。世界的に見ても利益が出ないレベルまで薬価が下がっており、製造できる企業がどんどん減っています。

最近、日本で歯科用麻酔薬が不足していますが、理由は同じです。採算が合わず製造企業が減り、残った企業でトラブルが起きると一気に供給不足になります。

中国・インドへの依存と“代替不能”の現実

多くの原薬は、中国やインドの巨大製薬企業が一拠点で年間数千トン規模で生産しています。その工場が「もう採算が合わないのでやめます」と言った瞬間、世界中が代替手段を失います。

医薬品に関しては、日本は中国の供給能力に強く依存しており、短期的に代替することは不可能です。「日本だけでなんとかする」は、残念ながら現実的ではありません。

2.オーソライズドジェネリック(AG)政策変更と市場再編

次のテーマは、AGをめぐる政策変更です。厚生労働省は2026年度の薬価制度改革で、AGを先発品と同等扱いにし、薬価も同じにする方針を決めました。

なぜ重要なのか

先発企業が自社製品をAGとして安く販売し、ジェネリック市場を囲い込む動きが強まっていました。その結果、AGを持たないジェネリック企業はシェアを奪われ続ける状況になっています。実際、イスラエルのジェネリック医薬品最大手のTeva社でさえ、2025年に日本市場からの撤退を決めています。

今後どうなるか

AGが先発品と同等扱いになれば、AGではないジェネリックの価格競争力が復活します。

• ジェネリック企業の再参入
• 市場シェアの再分配
• 価格競争の再活性化

停滞していたジェネリック市場が、再び動き始める可能性があります。

3.高額療養費制度の改定と日本の医療財政

3つ目のテーマは、高額療養費制度の改定です。

2026年8月から段階的に自己負担限度額が引き上げられ、2027年8月には所得区分の細分化も行われます。制度が複雑化し、全体像が見えにくくなるという指摘もあります。

本質的な問題は「自己負担」ではない

高額療養費制度の本質的な問題は、保険から償還される金額が青天井であることです。多くの国では、月額の償還額に上限(100万円、200万円など)が設けられています。しかし日本では、どれだけ高額な治療でも保険が無制限に支払います。

その結果、

• 医療費が増え続ける
• 保険財政が圧迫される
• 保険料や税負担が増える  という構造が続いています。

本来議論すべきは「償還額の上限」

医療制度を研究してきた立場から言うと、議論すべきは自己負担額ではなく、保険から支払われる金額の上限です。高額療養費制度によって、効果があまり期待できない治療を「とりあえず試してみる」ケースや、延命効果がほとんど見込めない状況でも高額治療が実施されるケースが、かつて学会で問題視されたことがあります。

年齢で線引きするべきだとは思いませんが、平均寿命を超える方が寿命を数か月延ばすために、皆保険のもとで青天井の高額治療を受けることには、慎重な議論が必要です。

また、非常に高額な治療費については、本来は民間保険で備えるべき部分もあります。高額療養費制度があるために、民間医療保険が十分に活用されないという問題もあります。今回の自己負担額の改定は、保険料負担の不平等をさらに広げる可能性があります。

まとめ

今日お話しした3つのポイントを整理します。

  1. イラン情勢で原油・物流が混乱し、原薬や触媒金属が高騰。
     日本は中国・インドの供給に依存しており、短期的な代替は困難。
  2. AG政策の変更により、ジェネリック市場が再編される可能性。
     AGを持たない企業にも競争力が戻る。
  3. 高額療養費制度の本質的な問題は、償還額が青天井であること。
     医療財政の持続性を考えるなら、自己負担額より上限設定の議論が必要。

医薬品業界はいま、大きな転換点にあります。
これらの変化が、医療を受ける私たち一人ひとりにどう影響するのか、ぜひ一緒に考えていければと思います。