国際結婚と日本女性による「子供の連れ去り」問題を考える

今日は、国際結婚における日本人女性の「子供の連れ去り」についてお話ししたいと思います。これは単なる家庭の問題ではなく、法制度、文化、ジェンダー、そして国際関係が複雑に絡み合う社会課題です。

関心を持ったきっかけ

私がこのテーマに強く関心を持つようになったのは2010年頃のことです。

当時、リモートワークをしながら海外で生活する「ワーケーション」を試みていました。イタリアのトリエステへ向かう飛行機で、偶然隣に座った日本人男性が「裁判の準備をしている」と話してくれたのです。彼は国際結婚の末、親権をめぐる裁判に巻き込まれていました。

私は口が堅いと思われるのか、単に話しやすいと思われるのか、赤の他人に相談されたり、身の上話をされたりすることが多いのですが、その時もなぜ親権をめぐる裁判をする羽目になったのか、トリエステにつくまでずっと話を聞くことになりました。

その時に聞いた話の詳細は書けませんが、子供の「親権」というものが、国によって定義が異なり、国際結婚においての離婚ではより話が複雑になり、何年も裁判で争うことも珍しくないということを知りました。

このケースのように、親権を求めて裁判する側が子供の居住国にいない場合には、裁判のたびに海外渡航しなければならず、経済的にも精神的にも大きな負担を抱えます。この方の場合は生活のすべてが裁判のためにあるとおっしゃっていました。さらに、幼い子供は引き取った親の言語や文化で育つため、もう一方の親の文化を維持することが難しくなるのです。

この経験を通じて、国際結婚における親権問題の複雑さを初めて実感しました。

日本女性が批判される背景

調べてみると、日本では逆に「母親による子供の連れ去り」が国際的に問題視されていることが分かりました。
フランスでは日本人女性が禁錮刑を受けた例があり、米国FBIの「親による誘拐」リストにも日本人女性が掲載されています。

背景には次のような事情があります。

  • 日本では離婚後の親権が一方の親にしか認められず、共同親権制度が存在しない(2026年から導入予定)。
  • 親権は約9割のケースで母親に渡る。

このため、日本女性は「親権は母親が持つのが当然」と考えがちで、国際的には違法となる行為を無意識にしてしまうことがあるのです。

福原愛さんのケース

最近では卓球の福原愛さんが、台湾人の夫との間の子供を取り決めに反して国外へ連れ出したことが問題となりました。台湾は共同親権制度を採用しているため、一方的な連れ去りは違法です。日本の家庭裁判所も「子の引き渡し命令」を出しました。

福原さんにとっては「母親が子供と一緒にいるのは当然」という感覚だったのかもしれません。ここに文化的な認識の違いが浮き彫りになります。

日本の法制度と課題

日本の民法は長らく「離婚後は単独親権」を原則としてきました。

戸籍制度では、離婚後の子どもは原則として父親の戸籍に残るため、親権と戸籍は必ずしも一致しません。この仕組みは、DV被害のケースで深刻な問題を引き起こします。例えば、父親の暴力が原因で離婚し、母親が親権を持って子どもと新しい住所に移った場合でも、子どもが父親の戸籍に残っているため、元夫は「父親」として住民票の照会を行うことが可能になります。これを防ぐために「住民基本台帳事務におけるDV等支援措置」が設けられ、住民票や戸籍附票の閲覧・取得を制限できる制度があります。しかし、役所が誤ってDV加害者に情報を公開してしまう事例が時折報道されており、制度の運用には不安が残ります。

2024年の民法改正により、2026年からは共同親権が導入されますが、国際的な水準と比べると十分とは言えません。養育費の強制徴収や面会交流の履行確保など、まだ課題は山積しています。

現在の日本は、マイナンバー制度も普及しており、養育費をマイナンバーを通じて給与から天引きする仕組みも技術的には可能です。にもかかわらず、制度設計の場に男性が多いため、男性に不利となる制度の導入には消極的な傾向があります。したがって、親権制度の議論や制度設計に女性の意見を適切に反映させることが、今後の重要な課題だと考えられます。

ハーグ条約とDV事案

国際的には1980年に「ハーグ条約」が採択され、子供の不法な連れ去りを防ぐ仕組みが整えられました。日本は2014年に批准しましたが、DV事案では返還拒否が認められるかどうかが大きな争点となります。

DV被害者が返還拒否を主張する場合、法的に立証する責任を負わなければならず、被害者保護と子の利益のバランスが難しいのが現状です。

つまりハーグ条約の下では、DVの可能性がある場合でも、訴えがあった場合には子供をDV親の元に戻さなくてはならないケースもありうるのです。そうならないためには、DV被害者である親自身が、DV事実をきちんと法的に立証しなくてはならないのです。

各国との比較

アメリカ、フランス、ドイツ、オーストラリア、イタリアなど多くの国は共同親権を基本としています。

一方、日本は長らく単独親権を維持し、国際的に孤立してきました。養育費の強制執行や監視付き面会交流など、諸外国では制度が整備されていますが、日本は遅れを取っています。

国名離婚後の親権制度共同親権の原則面会交流支援養育費履行制度DV対応ハーグ条約加盟
日本単独親権(2026年より選択的共同親権)×(改正後選択可)×(支援体制不十分)×(履行率低)△(単独親権選択可)2014年加盟
アメリカ共同親権(州により異なる)○(多くの州)○(監視付き交流含む)○(強制事務所あり)○(監視付き交流)1988年加盟
フランス原則共同親権1983年加盟
ドイツ原則共同親権○(少年局等)○(最低扶養料規定)○(裁判所判断)1990年加盟
オーストラリア原則共同親権1983年加盟

国際的批判と外交問題

日本の制度は欧米諸国から強い批判を受けてきました。2009年には8カ国の大使が共同声明を発表し、日本に加盟を求めました。

先に述べたように、米国FBIの「親による誘拐」リストにも日本人女性が掲載されていますし、フランスでは日本人女性が子供を連れ去ったとして禁錮刑を受けた例もあります。日本では「子連れ別居」と報じられることが多いですが、欧米では「実子誘拐」として厳しく扱われます。

さらに今年1月、ハンガリーで日本人女性が元夫に殺害される事件が発生したのは記憶に新しいです。女性はDV被害から子どもと日本へ帰国を試みたのですが、共同親権とハーグ条約の規定によりパスポート発給ができず、現地で孤立していました。現地では言葉の問題もあって、DVについてうまく立証することは難しかったのかもしれません。

冒頭にお話しした、親権を取り戻そうとトリエステ行の飛行機に乗っていた男性はかなりイタリア語が達者な印象でしたが、それでも裁判に臨むために気の遠くなる時間を準備に費やされていたのです。この件では日本側の支援体制の不備やDV事案への理解不足が悲劇を招いたとされ、国際的な議論を呼んでいます今年1月にはハンガリーで日本人女性が元夫に殺害される事件も発生し、支援体制の不備が国際的な議論を呼びました。

政策提言

この問題を解決するには、以下の取り組みが必要です。

  • 法制度の改善:子供の意見を第三者が適切に聴取、多文化間カウンセリングの導入。
  • 支援体制の強化:外務省・家庭裁判所・NPOの連携、国際的司法協力。
  • 社会的啓発:メディアによる正確な報道、ステレオタイプの是正、当事者や子供の声の可視化。

国際結婚が増える中で、制度の改善と支援員の育成は不可欠です。

まとめ

国際結婚における日本人女性の子供連れ去り問題は、法制度、文化、ジェンダー、DV、国際関係が複雑に絡み合う社会問題です。

2026年から共同親権が導入されるなど前進はありますが、まだ課題は残されています。今後は「子どもの最善の利益」を最優先に、制度改善と国際協力を進めることが不可欠です。