オーソライズドジェネリック(AG)とは何か──その誕生から制度議論まで

今日はここ数年で医薬品市場の中で大きな存在感を放つようになった「オーソライズドジェネリック(AG)」について、少し深く掘り下げてみたいと思います。名前は聞いたことがあっても、

・なぜ生まれたのか
・どんな役割を果たしてきたのか
・そして今、どんな議論の中心にいるのか

これらをきちんと理解している人は意外と多くありません。今回は、AGの背景から制度的な課題、そして今後の展望まで、できるだけわかりやすく整理してお話しします。

AGが生まれた理由

まずは、AGが登場した背景から。

日本では2000年代初頭、少子高齢化による医療費の増大に対応するため、ジェネリック医薬品の普及が強力に推進されました。当時の使用率はわずか5%ほど。欧米と比べても非常に低い状況でした。その後、政策的な後押しもあり、現在では政府目標の80%を達成するまでに普及しています。

ただし、日本のジェネリック医薬品の多くは、主成分である「原薬」を海外に依存しています。製造コストの問題ももちろんありますが、原薬製造には高度な化学技術が必要で、国内ジェネリックメーカーには設備や人材が不足していることと、抱えている品目が多すぎてすべての原薬を自社で製造するのは難しいためです。

輸入元は中国、インド、韓国、イタリア、スペイン、東欧など。大規模生産が可能で、コストも品質も安定している国々です。一方で、国内では中間体を輸入し、簡易工程だけを行って「国産原薬」としているケースもあります。

こうした背景から、2010年代には「海外原薬の品質は大丈夫なのか」という不安が医療現場にも患者にも根強く残っていました。その不安を解消するために登場したのが、先発品と同じ原薬・同じ製造方法で作られるAGです。
「品質への安心感」がAG誕生の大きな理由のひとつです。

新薬メーカーの戦略としてのAG

AGが生まれたもう一つの理由は、新薬メーカー側の戦略です。

日本では特許が切れた後も先発品は「長期収載品」として販売が続きますが、ジェネリックが参入すれば当然売上は減ります。そこで新薬メーカーは、契約したジェネリック企業を通じてAGを投入し、後発品市場も自社ブランドで押さえる戦略をとるようになりました。

AGは法的な定義こそありませんが、

  • 先発と同じ原薬
  • 同じ添加剤
  • 同じ製造方法

を使うため、実質的には「安価な先発品」と言えます。

新薬メーカーにとっては、先発市場+後発市場の両方を自社でカバーできるというメリットがあります。一方、ジェネリック専業メーカーにとっては非常に厳しい状況です。AGを作るには、先発メーカーにライセンス料を支払う必要があり、コスト面で不利になります。小規模メーカーは参入が難しくなり、競争環境は大きく変わりました。

2013年のアレグラAG登場以降、AGは急速に増加し、現在ではジェネリック市場の約80%を占めるまでになっています。

一般的なジェネリックとの違い

一般的なジェネリック医薬品は、先発品の成分を分析して作られますが、添加剤や配合割合までは完全には再現できません。

ジェネリック医薬品の承認には「生物学的同等性試験」が必要で、血中濃度の推移が一致すればOKという仕組みです。

そのため、「溶け方」、「飲みやすさ」、「使い心地」などが先発品と微妙に異なることがあります。

一方AGは、成分も配合も製造方法もすべて先発品と同じです。「効き目も使い心地も完全に同じ」という安心感が最大の特徴です。

最近の制度議論:AGの価格はどうあるべきか

ここからは、最近の制度的な動きについてお話しします。

中医協(中央社会保険医療協議会、厚労省傘下で薬価を決める機関)では、「AGは実質的に長期収載品と同じなので、価格も同じにすべき」という提案が出ています。

さらに政府は、ジェネリックがある薬で先発品を希望する患者に差額負担を求める案も検討中です。もしAGが長期収載品と同じ扱いになれば、AGを選んだ場合でも将来的に患者負担が増える可能性があります。

背景には、

  • 医療費を抑制したい政府の意図
  • ジェネリック市場の公正な競争を確保したいという考え

があります。

ここで医療費を抑制したいなら、AGの価格を新薬と同等にまで引き上げるのは、逆効果ではないかと思われた方もいるかもしれません。AGの価格を上げると、確かに医療費が増える方向に働くのですが、政府としてはジェネリック市場に公正な競争を持ち込んでAGだけが残るような事態を避けて安定供給を確保するとともに、国民に選択肢を残したいと考えているのです。

AGは特許切れと同時に市場に出せるため、一般ジェネリックより半年早く参入でき、事実上の独占期間を持ちます。また、後発参入でも「先発と同じ」というブランド力で市場を大きく奪うことができます。

その結果、近年では市場規模が大きい薬でも、AGを含めて1〜2社しかジェネリックに参入しないケースが増加しています。これは、AGが他社の参入意欲を削いでいることを示しています。

参考:後発品の薬価追補収載、今年も過去最低…AGの薬価見直し議論に、戦略再考必至 | AnswersNews

私は以前から、ジェネリック医薬品は、1つの製品につき3社程度の供給体制が最も望ましいと考えてきました。企業数が少なすぎると、供給停止が起きた際に代替が効かず、医療現場に深刻な影響が出るためです。

小林化工と日医工の品質不正で操業停止処分を受けた際、ジェネリック他社がこれらの企業が供給していた分の医薬品を供給しようとしたものの増産が置いつかず、薬局でかなり長い間在庫不足が深刻であったことも記憶に新しいです。

今後の展望:AGはどこへ向かうのか

このままAGが市場を席巻し続ければ、中小ジェネリック企業は淘汰され、再編が進むでしょう。再編自体は悪いことではありませんが、AGだけが残るような極端な構造は望ましくありません。

参考として、中国ジェネリック市場では最近導入された政策により、「品質など一定基準を満たした製品のうち、最安値を提示した企業が大部分の市場を獲得する」という、「市場総どり」の仕組みがあります。ただし完全独占にはせず2〜3社を残す設計になっており、やはり何か問題が起きた時に、他社が代わりに供給できる体制になっています。中国政府は、ジェネリック製薬企業に国内の大きな市場を与える代わりに、安定供給と品質向上の責任を強く求める仕組みです。

日本では品質へのこだわりから、AGに市場が集中するという独特の現象が起きています。しかし政府としては、安定供給の観点から一定数の企業を残したいという思いがありますし、新薬メーカーには創薬に注力してほしいという期待もあります。

最終的に重要なのは、患者と医療現場にとっての「安定供給」と「品質確保」です。

AGはこれまで品質面で大きな役割を果たしてきましたが、制度改革の中でその位置づけは大きく揺れ始めています。

まとめ

今日は、AGの誕生背景から一般ジェネリックとの違い、そして最新の制度議論までお話ししました。
AGは、

  • 品質への不安が残っていた時代に安心感を提供し
  • 新薬メーカーの市場戦略として重要な役割を担い
  • 患者にとっては「先発と同じ品質を安く使える」メリットをもたらしました

一方で、

  • ジェネリック市場の競争を歪め
  • 中小メーカーの参入を阻み
  • 供給の多様性を損なうリスクも生んでいます

そして今、AGは「長期収載品と同じ扱いにすべきか」という大きな制度議論の中心にあります。これは単なる価格の話ではなく、日本の医薬品産業の構造、創薬力、そして医療費の持続可能性に直結する問題です。

AGは、これまで日本の医薬品市場を支えてきた重要な存在でした。

しかし今後は、医療費抑制、供給安定、創薬力強化という複数の課題の中で、改めてその役割が問い直される時期に来ています。

私たち一人ひとりが、医薬品の仕組みや背景を理解し(複雑で難しいですが)、議論に参加していくことが、より良い医療制度をつくる第一歩になるのではないかと思います。