日本の医療制度は今、大きな転換点にあります。少子高齢化で医療費が膨らみ続ける中、政府は「OTC類似薬(市販薬とほぼ同じ成分の処方薬)」を保険適用から外す方向で議論を進めていました。
この記事では、OTC類似薬とは何か、なぜ保険外しが議論されているのか、そしてその裏にある問題点について、私自身の経験も交えながら考えていきます。
OTC類似薬とは?なぜ今、議論の中心に?
OTC類似薬とは、市販薬と成分や効果がほぼ同じ処方薬のことです。医療費が増え続ける中で、「市販薬で代替できる薬は保険から外すべきだ」という議論が強まっています。
維新の猪瀬直樹議員は、自身のnoteで保険給付から除外すべき28成分(薬剤費1543億円)を具体的に提示しました。
4月17日の社会保障下げる(医療費削減)のための自公維3党協議に提出した資料を解説付きで公開します。
*猪瀬議員のNoteにはOTC類似薬の記事が他にも多数あります。
これらは「市販薬と1日最大用量が同じ処方薬」をデータから抽出したものだとされています。
OTC医薬品は安全性を考慮して、処方薬より1日量を低く設定していることが多いです。この場合、安全域が広い反面、効き目は処方箋薬より劣ることになります。猪瀬氏が抽出した、一日用量が処方箋薬と同じOTC類似薬は、もともと安全域が広い薬ともいえるでしょう。したがって、こうしたOTC類似薬を保険処方から外し、積極的にOTC医薬品にしてはどうか、ということであると考えます。
医療現場で広く使われている薬も対象に
OTC類似薬の中には、日常診療で非常に多く使われている薬も含まれています。
• ヘパリン類似物質(ヒルドイド・保湿剤)…544億円
• 酸化マグネシウム(下剤)…231億円
• フェキソフェナジン(アレグラ・抗アレルギー薬)…203億円
これらは「市販薬で代替できる」と言われつつも、実際には多くの患者が治療の一環として必要としていることもまた事実です。
私自身の経験:ヒルドイド10本処方の違和感
10年ほど前、じんましんで皮膚科を受診した際、頼んでもいないのにアレルギー薬と一緒にヒルドイドを10本も処方されたことがありました。病院で処方箋をよく確認しないで持ち帰り、家の近くの薬局で発見し、薬局から病院に処方のキャンセルを依頼しましたが、医師に電話がつながらず、急いでいたのであきらめました。ヒルドイドは結局10本とも全く使用せずに捨てました。
当時ヒルドイドは「美容に良い」とテレビで話題になっていた時期でした。そのためこの大量処方には強い違和感を覚えました。
• 本当に必要なのか
• 医師は何を基準に処方しているのか
• 保険財源は大丈夫なのか
こうした疑問が一気に湧きました。
以前より医師に、「そのうがい薬は必要ないです」などといって、嫌な顔をされたことがありました。ですが明らかに不要なものは断っても良いと考えます。ですが大抵の日本人は、医師の処方箋にケチをつけることはしないで、黙ってお金を払い、残薬となるのではないでしょうか。
子どもの医療費無料化と「ついで処方」の問題
子どもの医療費が無料の自治体が増えています。財政的に余裕のある自治体によくある素晴らしい制度ですが、その裏で問題も起きています。
例えば子どもの受診についでに、親が自分用のヒルドイドを美容目的で処方してもらうということが、問題になった時期がありました。
本来は子どもの治療のための制度なのに、親が自分の美容目的で利用する。これは制度の趣旨から完全に外れています。
不正利用が積み重なると、社会全体が損をする
• 医療費が無駄に増える
• 保険財源が圧迫される
• 本当に必要な人への資源が減る
• 制度への信頼が低下する
OTC類似薬は、本来であれば市販薬で代替できるにもかかわらず、保険診療で処方されることで医療費を押し上げてしまうという構造的な問題を抱えています。
そのため、OTC類似薬を保険適用から外す議論には、単に保険財政の負担を軽くするだけでなく、不正利用を抑制するという狙いも含まれていると考えられます。
高額で効果の強い薬剤は、患者も医師も目的外使用に慎重になります。しかし、安価で安全域の広い薬剤の場合、「念のため多めに」「せっかくだから余分に」といった「つい」が積み重なり、結果として社会全体で見ると非常に大きな医療費につながってしまいます。
OTC類似薬を必要とする患者も確実にいる
ただ、アトピー性皮膚炎、乾燥肌、慢性疾患などで、日常的に大量の保湿剤や外用薬が必要な患者は確実に存在します。
市販薬で同等品を買うと、経済的負担は非常に大きくなります。月に何十本も必要になることもあり、OTCは保険が適用されないため高額です。
必要な患者が治療を続けられなくなるような制度変更は、避けるべきです。
製薬企業側の事情:薬価は極限まで下がっている
OTC類似薬の問題は、患者や医師だけの問題ではありません。製薬企業にも深刻な事情があります。日本の薬価制度では、長期収載品の薬価は毎年引き下げられ、最終的には採算が取れないレベルまで下がります。
その結果、
• 製造コストを下回る薬価
• 赤字のまま供給を続けざるを得ない
• 代替品がない場合、市場撤退もできない
こうした状況が生まれています。
企業にとってはOTCとして販売したほうが、自由に薬価を設定できるので合理的、あるいは採算の取れない市場から撤退した方がよい場合もあります。
なぜ不正が起きるのか?背景にある構造的問題
• 医師が患者満足度を上げるために欲しがりそうな薬を出す
• 処方数が増えるほど診療報酬が増える
• 患者側の「無料ならもらっておこう」、「市販薬より安く済む」という心理
• 行政の監視や罰則が弱い
こうした複数の要因が絡み合い、不正利用が起きやすい構造になっています。
制度を守るために必要な4つの改善策
内部通報制度の強化
医療機関内部の不正は外から見えにくいため、匿名通報や通報者保護が不可欠です。同時に行政が通報を放置した場合のペナルティも必要です。
不正に対する罰則の厳格化
目的外処方については、より厳格な対応が求められる場面もあると考えます。医師は患者の訴えを無視できないため、どこからが不正に当たるのか判断が難しいケースもありますが、明らかに不適切な処方が確認された場合には、医師・患者双方に対して厳しい措置を講じる必要があるでしょう。
OTC類似薬とは別の例ですが、近年ではGLP-1受容体作動薬が、本来の高度肥満治療ではなく、オンライン診療と組み合わせて「美容目的のやせ薬」として使われるケースが増えています。
GLP-1受容体作動薬はもともと糖尿病治療に使われる効果の高い薬剤であり、「自費診療だから問題ない」という話ではありません。医療上の目的から逸脱した使用には、一定の制限やルールを設け、違反した場合には罰則が必要と考えます。
子ども医療費無料化制度の適正化
こどもの医療費無償化は素晴らしい制度ですが、悪用されない仕組みが必要です。子供に関しても、一度3割負担分を支払い、後から自治体が払い戻す方式にすることで、「医療にはコストがある」という意識を持たせるようにすべきと考えます。
本当に必要な患者へのアクセス確保
昨年12月19日、自民党と日本維新の会は、OTC類似薬を全面的に保険適用から外すのではなく、一部の薬について患者が薬剤費の4分の1を追加負担するという方向で合意したと発表しました。
この方針には、OTC類似薬を必要とする患者がアクセスを確保し、保険適用除外によって過度な経済的負担を負わないようにするという意図もあると考えられます。また、医師会は、薬剤費の負担増を懸念した患者が受診を控える可能性についても問題視しています。
ただ、この追加負担方式は、制度として中途半端に映る面もあります。むしろ、当初検討されていたように該当するOTC類似薬をすべて保険適用から外し、患者が購入したOTC医薬品の年間負担額が一定額を超えた場合に国が補助する仕組みのほうが、より明確で公平性のある制度設計になるのではないでしょうか。
さらに、特定疾患や指定難病には該当しないものの、医療費がかさみやすい疾患についても、同様に個別の事情を踏まえた支援策を検討する必要があると考えます。
最後に:制度を守るのは私たち一人ひとり
OTC類似薬の問題は、
• 不正利用
• 必要な患者の保護
• 薬価制度
• 製薬企業の持続性
といった複数の要素が絡み合う複雑なテーマです。
どれだけ制度が整っていても、最終的に制度を守るのは、私たち一人ひとりの行動です。
この記事が、医療制度の健全性について考えるきっかけになれば幸いです。

