日本の社会保障費はどこから来て、どこへ向かうのか

日本の社会保障費は、高齢化と人口減少という構造的な変化の中で増え続けています。制度を持続可能にするためには、財源の内訳を正確に理解し、国際比較や制度の抜け穴、国債の役割などを多角的に捉える必要があります。

このブログでは、最新の公式統計をもとに、日本の社会保障費の財源構造、主要国との違い、現役世代の負担の実態、国債の国内消化の変化、そして今後の政策オプションまでを総合的に整理します。

1.日本の社会保障費の財源構造

1-1. 給付費の規模と内訳

2025年度の社会保障給付費は 約140.7兆円(GDP比22.4%)。年金と医療が約7割を占め、高齢者向け給付の比重が極めて大きい構造です。

分野金額(兆円)構成比(%)
年金62.544.4
医療43.430.8
介護・福祉等34.924.8
うち介護14.09.9
うち子育て11.98.5

(出典:厚生労働省・財務省資料)

1-2. 財源別構成

2024年度の財源構成は以下の通りで、保険料が58.3%と最大。公費(税金)は27.4%を占め、残りは資産収入等です。

財源区分金額(兆円)構成比(%)
保険料80.358.3
公費(国庫)37.727.4
資産収入等16.211.8
その他3.62.6

(出典:国立社会保障・人口問題研究所、厚生労働省)

1-3. 消費税の役割

2012年の「社会保障・税一体改革」以降、消費税は社会保障の安定財源として位置づけられています。

しかし、2026年度の国の消費税収(約34兆円)では、社会保障費(約39兆円)を賄いきれないという現実があります。

財務省:消費税の使途に関する資料

木内登英のGlobal Economy & Policy Insight:【衆院選の焦点⑨】消費税は社会保障制度の基礎的財源であることの意味を考える

1-4. 国債(特例公債)の位置づけ

不足分は特例公債(赤字国債)で補われています。2025年度は 特例国債21.9兆円 が発行され、一般会計歳入の約27%を国債が占めています。

国債による財源補填は、財政法上は例外的措置ですが、実態としては社会保障費の増加が国債発行の主因となっています。

2.国際比較から見える日本の特徴

2-1. 財源方式と負担率

日本は「社会保険料+税」の混合型で、保険料負担が高い一方、消費税率は低いという特徴があります。

国名財源方式消費税率社会保険料比率主な特徴
日本社会保険+税併用10%高い(労使)高齢化進行、保険料依存度高い
ドイツ社会保険方式19%非常に高い医療・年金ともに保険方式中心
フランス社会保険+税併用20%高い(企業)公費負担も大きい
米国税+民間保険州ごと低い民間保険中心、メディケア・メディケイドあり

(出典:OECD Health Statistics、各国財務省資料)

財務省:国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)
Honkawa Data Tribune:社会保障給付費の国際比較 
国税庁:税の学習コーナー

ドイツ・フランスは社会保険料中心、アメリカは民間保険中心という構造です。

2-2. 国民負担率

2021年の国民負担率は以下の通り。

• 日本:48.1%
• ドイツ:54.9%
• フランス:68.0%
• アメリカ:33.9%

日本は「中負担・中福祉」型で、今後も負担率は上昇が見込まれます。

2-3. 給付構造の違い

日本は高齢者向け給付が中心で、子育て・現役世代向け給付は欧州に比べて薄い傾向があります。

現役世代の負担と制度の抜け穴

3-1. 社会保険料の重さ

年収350万円の単身者の場合、所得税約7万円に対し、社会保険料は約50万円。企業負担を含めると100万円規模となり、賃上げや雇用にも影響します。国民健康保険は自治体差が大きく、中間層で年間100万円近いケースもあります。

日本維新の会:社会保険料を下げる改革提言

社会保険労務士法人Brainz:社会保険料引き下げは本当に実現できるのか

Taiki Furukawa Note: 【調査レポート】国民健康保険料はなぜ高い?誰が決めたのか?差し押さえの現実も解説

e-Stat: 国民健康保険実態調査

3-2. 制度の抜け穴

• 年収の壁(106万円・130万円)
• 被扶養者制度(第3号被保険者)の不公平性
• 複数収入源の保険料判定の抜け穴
• 金融所得が医療費負担判定に反映されない問題

これらは公平性を損ない、制度の持続性にも影響します。

大阪(本町)東京(日本橋)寺田税理士事務所 社労士法人フォーグッド:【2025-2026年完全版】年収の壁103万円・106万円・130万円・160万円・178万円徹底解説|パート・扶養で働く人への影響シミュレーション

厚労省:年収の壁への対応 
日本維新の会:社会保険料を下げる改革提言
厚労省資料(日本商工会議所・東京商工会議所):持続可能な社会保障制度の構築に向けた意見

3-3. 国民健康保険の滞納問題

所得ゼロでも定額部分が請求され、滞納すれば差し押さえも行われます。
低所得者への負担が過大で、制度運用の見直しが求められています。

4.維新の会などの改革案と専門家の評価

維新の会は社会保険料の軽減を掲げ、医療DX、不要病床削減、応能負担の徹底などを提案しています。

日本維新の会:社会保険料を下げる改革提言

しかし専門家は、

• 保険料を下げれば財源の穴が拡大
• 医療DXで数兆円削減は根拠が弱い
• 給付削減や高齢者負担増は政治的に困難

と指摘しており、実現には大きなハードルがあります。

社会保険労務士法人Brainz:社会保険料引き下げは本当に実現できるのか
厚労省資料(日本商工会議所・東京商工会議所):持続可能な社会保障制度の構築に向けた意見

5.国債の国内消化構造の変化

5-1. 国債の種類と役割

社会保障費の増加に伴い、特例国債の発行が常態化しています。

グローバル・エコノミー・インサイト:国債と社会保障費の関係
財務省:債務管理リポート2025 第1章国債

5-2. 国債保有者の変化

2024年12月時点で日本銀行が 52% を保有。保険・年金、銀行の比率は低下し、海外投資家が増加しています。

保有主体保有高(兆円)保有比率(%)
日本銀行55952
保険・年金22020
預金取扱機関10610
海外696.4
一般政府656
その他413.8
家計151.5

(出典:日本銀行「資金循環統計」)
ふくろう:日本国債の保有者内訳ランキングと推移、海外比率、日銀の保有動向
財務省:国債等の保有者別内訳

5-3. 郵貯・年金基金・個人投資家の動向

ゆうちょ銀行の国債保有残高は2016年の82兆円から2023年には38兆円まで減少し、2024年3月末時点では43.8兆円とやや持ち直していますが、資産運用の多様化が進んでいます。

新NISAでは個人向け国債が対象外となり、個人資金は株式・投信へ流れています。

新NISA制度では個人向け国債が対象外となっており、個人投資家の資金が株式や投資信託などリスク資産に流れる傾向が強まっています。

郵貯:シンポジウム資料 中期経営計画の見直しとゆうちょ銀行の今後の展望
Worries.com:【徹底解説】ゆうちょ銀行の全貌と将来性 ~独自分析と投資判断~
アセット日本ドットコム:新NISAで国債投資ができない理由と賢い代替戦略を徹底解説
利益:個人向け国債と新NISAのどちらが良い?50代から考える安定運用と資産形成戦略

5-4. 海外投資家への販売強化

財務省は海外IRを強化し、海外保有比率は14.5%まで上昇。ただし海外投資家は金利や流動性に敏感で、安定保有者とは言い難い側面があります。

財務省:資料財政健全化の必要性と取組 
財務省:国際IR 

6.国債依存のリスク

国債残高は2023年度末で 1,235兆円(GDP比210.6%)。OECDやIMFは、対策がなければ260%まで上昇すると警告しています。

厚労省資料(日本商工会議所・東京商工会議所):持続可能な社会保障制度の構築に向けた意見
財務省:資料財政健全化の必要性と取組 
内閣府:経済・財政・社会保障に関する長期推計

また、長期金利が名目成長率を上回る場合、プライマリーバランス(PB)黒字化が不可欠であり、PB赤字が続けば債務残高対GDP比は増加し続けます。

2040年度の社会保障給付費は188.5~190.3兆円(対GDP比23.8~24.1%)に達すると予測されています。75歳以上人口は2025年の2,227万人(18.1%)から2040年には2,900万人(25.7%)に増加し、支え手となる20~64歳人口は減少を続けます。

内閣府:経済・財政・社会保障に関する長期推計
厚労省:「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」等について

このままでは現役世代の負担が一層重くなり、社会保障制度の持続可能性が危ぶまれます。

7.今後の政策オプション

7-1. 給付と負担の見直し

• 高所得高齢者の負担増
• 第3号被保険者制度の見直し
• 医療・介護DX
• 子育て・現役世代への重点化

木内登英のGlobal Economy & Policy Insight:【衆院選の焦点⑨】消費税は社会保障制度の基礎的財源であることの意味を考える
厚労省資料(日本商工会議所・東京商工会議所):持続可能な社会保障制度の構築に向けた意見

7-2. 税制改革

• 消費税率の段階的引き上げやモノやサービスごとの税率設定
• 炭素税など新税
• 所得税・法人税の見直し

厚労省資料(日本商工会議所・東京商工会議所):持続可能な社会保障制度の構築に向けた意見

7-3. 社会保険料制度の抜本改革

• 応能負担の徹底(金融所得・複数収入の一元的把握)
• 被扶養者制度・第3号被保険者制度の見直し
• 健康保険、年金制度の再構築(全国民が同じ基準で保険料負担)

7-4. 国債の持続可能性

国債の持続可能性を確保するためには、財政健全化への信頼できる中期的なフレームワークが不可欠です。海外投資家の比率が高まる中、国債や通貨の信認維持が一層重要となります。

• PB黒字化
• 市場流動性の維持
• 海外投資家へのIR強化

ふくろう:日本国債の保有者内訳ランキングと推移、海外比率、日銀の保有動向
財務省:資料財政健全化の必要性と取組 

巷では「MMT(現代貨幣理論)」を根拠に、 「国債が国内で買われる限り、国はいくら発行しても破綻しない」という主張をするグループもあります。ですが現実的には、国債に関しても海外投資家に頼らざるを得ない状況にあります。

おわりに

日本の社会保障制度は、保険料と税を柱としつつ、足りない部分を国債で補う構造にあります。

しかし高齢化が進む中で、現役世代の負担は限界に近づき、制度の不公平や国債依存のリスクも顕在化しています。今後は、給付と負担のバランス、税制改革、社会保険料制度の抜本改革、国債管理の強化など、複数の政策を組み合わせた総合的なアプローチが不可欠です。

この問題に正面から取り組まないことには日本が負のスパイラルから抜け出すことは難しいでしょう。