本日は「移民制度」について、私自身の経験も交えながら、国際的な事例と日本の現状を比較しつつ、これからの日本が進むべき道について考えてみたいと思います。
カナダでの生活から見えた移民の光と影
私が以前、カナダで永住権を取得し、現地で生活していたことについては、日本がカナダから学べることでお話しました。カナダは移民によって築かれてきた国であり、多様な文化が共存し、それぞれの人材が社会に貢献することで、国全体が活力を得てきました。ですが現在のカナダは移民の急増により住宅価格や物価が高騰し、ホームレスの増加といった社会的課題も顕在化しています。移民政策は、経済成長の原動力であると同時に、社会の安定を揺るがす可能性もある。つまり、制度設計の巧拙が国の未来を左右するのです。
日本の現状:慎重な姿勢と制度の限界
一方、日本は移民に対して慎重な姿勢を保っています。政府は「移民」を永住権を持って入国する者と定義し、技能実習制度や特定技能制度など、就労目的の外国人労働者の受け入れは移民とは区別しています。
特定技能制度は2019年に導入され、人手不足が深刻な分野に外国人材を受け入れる仕組みです。技能実習制度は「技能を学ぶ」という建前がありますが、実態としては安価な労働力としての位置づけが強まり、労働環境の不備や人権侵害の問題も指摘されています。
日本も少子高齢化が進み、介護や建設などのエッセンシャルワークを外国人に頼らざるを得ない状況です。しかし、労働条件の改善が進まないまま低賃金で外国人労働者に依存することは、日本人労働者の賃金低下や職場環境の悪化を招きかねません。これは、社会全体の持続可能性に関わる重要な課題です。
シンガポールの選別型移民政策に学ぶ
カナダと対照的なのがシンガポールです。2024年時点で人口の約4割が外国籍であり、過去20年で人口は1.5倍、一人当たりGDPは約3倍に成長しました。現在のGDPは約9万ドルで世界第4位。日本は約3万ドルで36位です。
出生率の低さという課題は日本と共通していますが、シンガポールは移民によって人口バランスを維持し、経済成長を実現しています。
シンガポールの移民政策は、経済重視の選別型です。高度人材は積極的に受け入れ、低技能労働者には厳しい制限を設けています。労働許可証、Sパス、Employment Passなど、職種や給与、学歴に応じた制度が整備されており、永住権や市民権の取得も厳格です。
高度人材にはインセンティブが与えられ、企業には外国人雇用税の免除などの優遇措置があります。これにより、金融、IT、バイオテックなどの分野で国際競争力を維持しています。
ただし、自国民と外国人労働者間の賃金格差や文化的摩擦といった課題もあります。外国人が地域社会に根付くのが難しく、社会的分断のリスクも存在します。日本が同様の道を歩むなら、元々国際都市であるシンガポールとは異なり、文化的多様性が低い分、より慎重な制度設計が求められます。
カナダのポイント制と投資移民制度
カナダの移民制度は、ポイント制と投資移民の二本柱です。学歴や職歴、年齢などに基づいてポイントを算出し、高得点者を優先的に受け入れる仕組みは、透明性と公平性を兼ね備えています。
一方、投資移民は80万カナダドル(約1億2,000万円)を政府認可のプログラムに投資することで永住権が得られる制度です。資本力のある者が優遇される構造が存在し、制度の階層化が進んでいます。
日本の投資移民制度の課題と改善提案
日本にも経営管理ビザという制度がありますが、必要な出資額は500万円と、国際的に見ても非常に低い水準です。しかも、実際に事業を運営していなくても取得可能なケースがあり、そうした経営管理ビザで入国する外国人による不動産投資や民泊経営を通じて地域住民とのトラブルが増加しています。
米国では、EB-5投資移民制度の最低投資額を500万ドル(約7億5千万円)に引き上げる案が出されました。これと比較すると、日本の制度は規制が緩すぎると言わざるを得ません。
安易な規制緩和は、日本の社会的価値や地域の安定を損なう可能性があります。投資額の引き上げや、外国人による不動産取得への一定の制限は、制度の信頼性と地域社会の調和を守るために必要です。
これからの日本の選択:戦略的な移民政策へ
日本は、「移民を受け入れるか否か」という単純な議論ではなく、「どのような人材を、どのような条件で受け入れるか」という戦略的な視点が求められます。
前提として、
- 少子高齢化は止まらない
- AIの発達により、日本語の壁が将来的に消える可能性がある
このような未来を見据えると、日本に来たいと考える外国人が増える一方で、日本から出ていく人材も増えるかもしれません。つまり、国内の労働環境が他国より魅力的でなければ、人材の流出と外国人労働者の減少が同時に起こる可能性があるのです。
シンガポールは経済が好調だからこそ、世界の人材を引き付けられています。日本は治安や文化的魅力があるとはいえ、経済的な競争力を高めなければ人材争奪戦に勝てません。
永住を前提としたエッセンシャルワーカーの受け入れを
私は、短期的な労働力ではなく、永住を前提としたエッセンシャルワーカーの受け入れについても、真剣に検討すべきだと考えています。ヨーロッパでは移民が社会問題の火種になることもありますが、必要な人材を長期的に確保するという意味では、制度的な整備と地域社会の受け入れ体制が不可欠です。日本はすでに外国人労働者にとって、短期の出稼ぎ先ではなくなっているという認識が必要です。
最後に:人間の尊厳と社会の絆を守る制度へ
外国人問題は、今回の参議院選挙でも注目され始めましたが、実は非常に緊急性の高いテーマです。日本の経済的地盤沈下が進む今、場当たり的な制度の継承ではなく、未来を見据えた移民制度の構築が必要です。
国の未来を左右する重要な政策だからこそ、他国の成功と課題から学び、日本にふさわしい制度を築いていく責任があります。そしてその制度は、単なる経済合理性だけでなく、「人間を受け入れる制度」である以上、人間の尊厳と地域社会の絆を守るものでなければなりません。
移民は労働力である前に、生活者であり、隣人であり、未来の日本社会を共につくる仲間です。だからこそ、受け入れる側の制度だけでなく、共に暮らすための教育、医療、住宅、言語支援など、包括的な社会統合政策が必要です。
日本は、世界の中でも治安が良く、文化的にも成熟した国です。その魅力を活かしながら、持続可能で公正な移民制度を築くことは、次世代への責任でもあります。国際的な事例を踏まえ、未来に向けた制度づくりを進めたいと考えています。

