薬価と私たちの生活

最近のyahooニュースに、医療機関の倒産が増えているというのがありました。(元記事は帝国データバンク

仕入れ値が上がっているが、医療サービスは公定価格のため値上げできない。そう、これは介護や薬にも言えることです。限界まで赤字でも営業して、突然倒産となることもあるでしょう。

薬価は安い方がいいのか

普通の人は薬の価格が安いというと、どう思うでしょうか?安いのはいいことでしょうか?

過去30年日本はデフレ経済が続き、モノの価格が上がらないことが当たり前のようになってしまいました。ですが物価が上がっていなかったのは日本だけで、周辺諸国では物価がこの30年で、二倍、三倍になったところもあります。薬の中には原材料のほとんどを輸入に頼っているものもあります。日本の人件費はあまり変わっていないかもしれませんが、諸外国の人件費はアジア諸国でも日本の給与を上回る国があります。

日本の薬価

日本の薬価は基本的に高低価格で、毎年数%切り下げられていきます。もっとも、このようなシステムを採用しているのは日本だけではなく、ヨーロッパの国にもあります。

日本では薬の効能や安全性が承認された後、厚労省医政局経済課で薬価を決定することになっています。価格の付け方にはルールがあり、計算式もあります。様々な事情を考慮して決定しますが、基本的に海外で販売されている価格も参照するため、ある国だけ異常に高いことも、逆に低いこともありません。もしそうなったとしたら、安い国から個人輸入したいという患者が殺到するでしょう。これを描いた中国映画に、「薬の神じゃない(原題:我不是薬神)」があります。

現在日本の新薬における薬価の問題では、前のブログで述べた、拡大再算定や費用対効果評価などがあります。

日本の薬価政策がイノベーションを阻害する? 薬価政策が医薬産業に与える影響

通常の薬価切り下げ以外にも、薬価が切り下げになる局面は実は幾つもあります。

効果と価格の高い新薬が費用対効果評価の対象

ちなみに昨日、エーザイの新しいアルツハイマーの薬である、「レケンビ®」について、費用対効果評価の再分析の結果が出たという報告がありました。エーザイが用意した分析結果と政府(中医協)が用意した分析結果に隔たりがあり、薬価が15%引き下げられることになりました。下記はエーザイによるプレスリリースです。

厚生労働省の中央社会保険医療協議会による「レケンビ®」の費用対効果評価について

普通の人は何を言っているか?だと思います。

日本の薬価制度では、新薬の場合、画期的な薬や小児用の薬など、加算と言って算定された薬価にさらにプレミアムが載せられます。制度ができた当初、費用対効果評価で評価後、このプレミアム分について薬価の引き下げを行うとしていましたが、プレミアム分以上の引き下げもするようになりました。ですから結局なんでもありです。

費用対効果評価は、加算のある効果の高い薬が対象ですから、日本の薬価に関しては、プレミアムがつくことが必ずしも良い結果をもたらさず、後でドーンと引き下げられる可能性があるということです。ましてこうしたプレミアムの付く薬が外資系の薬に多いとなると、外資系の薬をターゲットとして薬価を引き下げていると誤解されかねません。そして日本の市場には新薬を上市しないという決断になるかもしれません。

薬価の過度な引き下げがもたらす影響について

近年登場している画期的新薬は、日本で承認申請が行われない場合、個人輸入による入手に頼らざるを得ません。この場合、健康保険の適用はなく、万が一の副作用や事故に対する公的な救済措置も存在しません。

日本における死因の第1位は、35歳から90歳の年齢層において「がん」です(10代・20代では「自殺」が最多)。日本人の2人に1人が、生涯のうち一度はがんにかかると言われています。健康なうちは実感しにくいかもしれませんが、がんを患った際、海外では使用可能な薬が日本では手に入らないとなれば、患者・家族にとっては非常につらく、理不尽な状況と言えます。

現在、日本と米国は関税を巡って摩擦を抱えていますが、薬価政策についても、国際的な議論の俎上に載る可能性が高まっています。薬価を極端に引き下げることで、製薬企業の参入意欲が失われ、結果として日本の患者が世界標準の治療薬から取り残されるおそれがあります。