上川外相の発言と氷河期世代

上川陽子外務大臣が5月18日に静岡知事選の応援演説で「うまずして何が女性か」と発言したことをメディア一斉に取り上げました。もちろん、上川さんは大臣という立場なので、発言に気を付けなくてはいけないのは確かですが、メディアの取り上げ方もちょっとどうなのと思うところもあります。私は生んでいない女ですが、生まないことが女性であることを否定するわけではないと考えています。個人的な見解は「上川さんは意外と古臭い考えの人だった」です。彼女の考えに嫌悪感を持った人は、彼女や彼女の所属する政党に投票しなければ良いのです。

もっとも、こうした考え方は時代や世代によっても変わると思います。彼女が若い時、女は生んでなんぼ、男は稼いでなんぼ(?)、政治家はたくさん裏金作ってなんぼ(??)だったかもしれません。時代に合わないセリフがうっかり口から滑り出るようになったら、あるいは考えが時代とあわなくなったら、政治家としてはあまり長くはないということだけでしょう。

世代と言えば、以前から私のブログでも何度か言及していますが、いわゆる氷河期世代の問題は、政府としてそろそろ真剣に向き合わなくてはいけないでしょう。私個人がバブルの最後の年の就職組だったので、氷河期世代も上はすでに50代半ばに差し掛かっています。

ちなみにバブル世代が皆良い思いをして、氷河期世代が皆悪かったかというとそんなことはないと思います。私などは会社に入ってから新人の採用が何年もなく、いつも下っ端の立場で雑用ばかりさせられるということを、身をもって体験しました。私が入社する前年まで、新入社員を何十人、何百人と採用していた大手企業でさえ、突然採用を若干名にし、新規採用を凍結した時代が長く続きました。それは氷河期世代の個々人にも、日本企業にも、あるいは日本の社会全体にも負の爪痕を残しました。実際、採用凍結が長引き、大手企業で採用されるのは東大卒ばかり(特に研究職では)というありさまでした。それ以外の新卒は一体どこに行ったのだろうというのが、実際に新卒就職市場で起こったことです。

当然、氷河期世代の中には思うようなところに就職できず、転職を繰り返す人や、非正規での仕事を転々とした人も多くありました。私自身も転職は多いのですが、正直、パワハラや職場環境に耐えられないなど、ネガティブな理由で転職したことはありません。だからこそ、辞めた会社の同僚ともずっと良い関係を築いてこられたわけです。ですが氷河期世代の話を聞くと、本当にそんな会社が日本にあるのかというような、ひどいいじめ、パワハラ、超長時間労働や残業代の不払いなどを多く耳にします。

そして氷河期世代の第一の特徴は、就業の不安定さからくる低収入です。もちろん、中にはそうでない人もいるでしょうが、世代全体としてはそうです。当然、社会保険料なども多くは払っておらず、将来の年金額なども期待できません。(もっとも、年金改革がなければ、現在の若い世代が現在の年金受給世代の受給額を超えて受け取ることはないでしょう)堅実な氷河期世代は少ない収入からコツコツと貯金し、投資をし、地道に資産を増やしていったような人もいますし、そもそも派手な消費はしない世代です。

ちなみに日本のGDPの約半分は個人消費によるものです。こうした消費をしない世代が消費の中心的な役割を担う年齢にある場合、当然日本のGDPも増えません。よく円安になると輸出が増えてGDPが増えるという人がいますが、GDPに占める輸出割合は2018年で18%割程度ですので、個人消費に比べると影響は少ないです。しかも円安になると輸入品を原材料とする物品の価格が上がりますので、益々消費が落ち込むという悪循環です。それに円安の恩恵は一部企業しか受けませんが、円安の悪影響は国民全体が受けることになります。

話が脱線しましたが、氷河期世代のもう一つの問題は未婚率の高さです。男性のおよそ3人に1人、女性の5人に1人が未婚で、子どもはいません。日本の場合、出生率は婚姻率と密接な相関関係があり、婚姻率が上がらないと出生率は上がりません。ですので、現在の岸田内閣の子育て支援策ですが(ばら撒いてもよいですが)、これは出生率には影響がないでしょう。

日本の場合、若い人が結婚して子供を作りたいと思えるような環境を作ることがまずは重要です。具体的には例えば、学生結婚、在学中に子供ができた場合、国から生活給が出て、さらに授業料が免除になるとかですね。仕事が一段落した後の40代に無理やり妊活するより、若いうちに子供を産んで育てた方が、絶対後の人生が楽ですし、あまり言いたくないですが、高齢出産では障害児出生の確立も高まります。こればかりは生物としてのタイムリミットがあるので仕方がありません。

それからギフテッドについて言及しているブログでも述べていますが、みんな横並びの教育制度をやめ、早く大学に入れる人は10歳でも15歳でもいいから、本人がのぞめば飛び級させ、他の子より早く卒業してもらうことです。ギフテッドでなくても、私が学生時代、文系の同級生は3年ですべて単位を取ってしまい、残りの1年はバイト三昧のようなことをしている人がかなりいました。なんのために若い時期の貴重な1年を無駄にしているのかわかりませんでした。

学校はすべて単位制にして、必要な単位を取ったら何年生でも卒業させるべきです。そして在学中、あるいは卒業後すぐの20代初めの結婚、育児を経験してから新卒社会人になることも奨励すべきでしょう。そのためには教育における集団管理から、個別教育に流れを変え、教育の多様性をはかることが重要ですし、若くして子育てのために仕事を離れた男女が、学業や仕事に復帰できるようなシステムを作るべきでしょう。

ですが今の文科省は、集団管理をどんどん強化してがんじがらめにし、やっていることが少子化奨励になっていると感じます。世の中益々高学歴になり、さらに上の資格がないと仕事に就けなくなり、このままでは確実に初婚年齢も出産年齢も遅くなってしまいます。そして日本の終身雇用制度の下では、一旦就職につまずくと、一生結婚も出産もできないような状況に陥ってしまいます。

私の親の世代では、正社員や日本の終身雇用制が将来の安定をもたらすと考えている人が多かったと思います。ですが時代は変わりつつあります。昔は教員や公務員と言えば無敵でしたが、今は中途採用をしても追い付かないほど成り手不足です。

私が昔中国企業で働き始めたとき、「日本にいながらリモートワークで中国企業の仕事をしている」と言っただけで、周りの人に無茶苦茶怪しいという顔をされたものです。が、今は「どうやってその仕事を見つけたんですか?中国の企業で日本人一人だけで仕事していたなんて、すごいですね」と若い人に言われることが多くなってきました。誰も日本の大手企業が未来永劫続くと思っていません。社内政治だけで定年まで完結する安泰なサラリーマン生活は昭和の残像です。むしろこれからの若い世代は、普通の人ができないような経験と、自分自身を成長させてくれる機会を探しています。個人としてのスキルを磨くことが、将来につながると賢く考えているわけです。

私は保守でもリベラルでもないのですが、リベラル派は時として労働組合やアカデミア出身者が多く、古い制度の上に延々と培ってきた自分たちの権利に固執しがちです。ですので、なかなか教育制度改革にも、雇用制度改革にも柔軟になれません。ですが先に述べた氷河期世代からは、それまで常識とされてきた社会常識からいい意味で逸脱していますので、こうした人たちが団結することで、世の中を変えられるはずと感じます。高齢世代は生物学的に、黙っていても間もなくお迎えが来ますし、氷河期世代が多数派になるのはそんなに遠い将来ではありません。一緒に新しい価値観で日本を変えていけたらと思っています。