これからの時代の仕事のあり方について

私はこれまで何度も転職をしました。実は4月からまた新しい会社と一緒にお仕事をすることになったので、かれこれ8社目くらいでしょうか。日本人は一般的に、転職が多い人に対し、「辛抱の足りない人」というような、良くない印象を持っていると思います。

最近亡くなった山崎元さんの著書の中に転職に関する本があり、手に取ってみたところ、転職の多い方というのは、なるほど共通する考えがあると思いました。

みなさんご存じのように、日本は終身雇用制を採用していて、会社がつぶれない限りクビになるということはありません(でした)。私はこの日本の制度が必ずしもいい制度だと思っていません。特に現代のように、仕事の移り変わりが激しい時代には、一部の高度に専門的な知識を要求する仕事を除いては、あっていない制度だと思っています。

会社も雇われる方も、お互い我慢しながらだらだら定年までやり過ごすという手法は、経済が絶好調なら許される制度かも知れませんが、人材の無駄が多く、日本の本来のポテンシャルを奪うものだと思っています。日本の失われた30年の原因そのものであるとも、日本人の給料がずっと上がらなかった元凶でもあったと思っています。

会社の立場に立つと、使えない社員(勤務態度が悪い、能力が低い、新しいことを勉強する意欲がない、そもそも技術や技能が職務にあっていない等々)には辞めてもらい、別の誰かふさわしい人に仕事をしてもらいたいわけです。その人がいるおかげでポジションは空かず、かといって大抵の場合は余計に人員を雇う予算もなく、仕事が滞ることになります。その滞った仕事は他の誰かのしわ寄せとして社内に波及します。会社全体として、生産性が低くなり、利益も減り、結果として従業員全体の給与が上がりません。

従業員の立場に立つと、クビにならない=収入が安定するかもしれませんが、そもそも生産性が低いということはその人の能力にあっていない、その仕事が好きではないということでしょう。ものすごく頑張っているのに仕事ができないのなら、その仕事は向いていないので、さっさと辞めて別の楽しくできる仕事を探した方が本人のためです。ひょっとすると、その仕事を辞めて、全く別の職業訓練を受けたら、思いがけず新たな才能を見出すかもしれません。もちろん住んでいる地域や、時代(氷河期世代など)、仕事の内容、その他様々な条件から、その仕事をやるしかないという場合もあるかもしれません。ですがこの場合は仕事をしている本人も不幸ですし、結果的に周りの人も不幸にします。

私は主に外資系の企業が多かったので、基本的には1年契約の更新で仕事をしています。が、特に今まで問題だと思ったことはありません。外資系企業は契約が何年であっても、成果が出なければすぐに契約を解除されるので、何年契約かは問題ではありません。もう一つ、1年単位の契約の方が、契約更新の際にその年の成果と次の年の年俸をお互い真剣に考える機会になるので、私にはあっていると思っています。

私も社会人になって間もなくは日本企業に勤めていました。その企業での人事考課のような査定は形式的なもので、給与やボーナスが査定の結果で大きく変わることもありませんでした。私は当時労働組合の仕事もしており、査定のデータベースを管理していました。その会社では、同じ部署ならAは何人までのように相対評価になっていました。結婚して辞めるかもしれない、子どもを生んだら辞めるかもしれないと思われていた女性は優秀な従業員であっても?な査定のことがありました。

管理職には、査定は年度内の評価だと何度言っても女性の査定にはなぜか未来に起こるかもしれないファクターが入り込むのです。男性の従業員の場合でも、例えば実家の家業を継ぐからとあっさり辞めたりする従業員もいました(そういう人ほど上司が特に目をかけて優遇していたりするものです)が、定年まで勤めあげるという仮定は揺るぎませんでした。ですが査定がAでもCでもでも、結局給料が月にして2000円くらいしか変わらないのであれば、結果的にはどうでもよくなってしまいます。

会社として大切なことは、給与の原資が増えることです(つまり業績アップ)。原資が増えれば、その余剰金を優秀な人に分配できるので良いのですが、年功序列の制度の下、従業員がほとんど辞めない企業というのは、毎年確実に従業員の給与全体が上がり続けるという問題を抱えるのです。業績の伸びが給与の上昇率を上回るなら良いのですが、そうでない場合は給与を減額するわけにもいかず、苦肉の策として新規の正社員採用を中断し、基本的に昇給のない非正規社員で補充するということを繰返し、余計に仕事が回らなります。会社全体としての生産性も上がらず、利益も上がらず、正社員の給料も上がらずという負のスパイラルと闘わなくてはならなくなるのです。今日本の大手企業は同じ問題を抱えています。

この終身雇用制が抱える問題に、労働組合は全く無力です。大手企業の労働組合も、現在は労働組合という既得権になっていて現実の労働問題ときちんと向き合えているのか?です。労働組合は組織率がすでに20%を割っていますので、時間と共に衰退するのは明らかでしょう。

では解雇可能な社会ではみんな幸せなのかと言うと、もちろんそうではありません。外資系企業の場合は、従業員に問題があるときだけでなく、会社の戦略の変更など、会社都合でもレイオフがあります。予想していないタイミングでクビになったらもちろん大変です。ただ社会は突然の解雇にあった人はもちろん、何らかの理由で会社を辞めた人に、日本ほど冷淡ではありません。それはもちろん誰にでも起こりうることだからです。

最近は日本でも、最近は転職経験があることポジティブにとらえられることも多くなってきました。若い世代では転職を常に意識している人が増えているようですし、逆に私のように50代を超える年齢になると、一度も転職経験がない人は転職マーケットでは圧倒的に不利です。一つの会社に長くいると、別の会社に適応しにくくなってしまうからです。その会社で通用していたことが、他の会社で通用するのかどうかもわかりません。転職者にとっても、他の会社に移るメリット(退職金など)もないでしょうし、転職先でうまくやっていける確率が減るからです。ちなみに昔は転職35歳限界説というのがありましたが、少なくとも今は関係ありません。私も、私の周りの知人たちも、40代、50代でも普通に転職していますし、待遇面においても下がる人もいるでしょうが、そうでない人も沢山います。

山崎元さんは、転職が確か10回以上だったと記憶しています。大切なのは本人が納得して転職することと、その転職ごとに本人に得るものがあることでしょう。私もこれまでの転職で、大変なことはもちろん多くありましたが、普通の人が経験できないようなことをたくさん経験できました。また山崎さんも著書の中で書かれていましたが、私も辞めた会社の同僚とずっと関係が続くことが多く、転職の度に人脈が広がり、私の人生には転職はプラスに働いていると思います。だから合わないと感じている会社で悶々としている方には、思い切って転職されることをお勧めします。辞めたあとに振り返ったら、辞めた会社はいい会社だったと思うこともあるかもしれませんが。ただ、転職にはタイミングも重要なので、事前に十分な準備をして、機が熟するのを待つということ忘れないことお勧めします。思い付きで辞めると後が大変です。

仕事は多くの人にとって生きがいの一つでしょう。お金さえもらえればOKではなく、やりがいや社会的なステータスのために必要という方もいるでしょう。だからこそ合わない仕事や職場で無理せずもっと気軽に転職できる世の中になればと思います。雇用者の解雇条件ももっと緩和されてもいいと感じます。思いがけず失業した方は、雇用保険や生活保護できちんと捕獲できるような体制にすることも重要です。個人事業主やフリーランスも雇用保険の掛け金を払えば、雇用保険の対象になるような制度は検討すべきと思います。日本の社会は起業家になぜか厳しい社会だと感じています。

これからの10年は産業構造の再編の時期で、大手企業ほど時代の変化についていくのが難しく、苦しい時代になるでしょう。政府は新NISAを国民に推奨し、一時的に投資が活発になっていますが、大手企業の決算は株価に似合っているでしょうか?倒産もこれからどんどん起こると思います。一方で個人が主体となって新しい次世代の産業を模索し、そのなかから将来の大企業のタネが生まれる時代となると感じます。だから個人としてはできるだけ主体的に、柔軟性を持って仕事をすることが必要になると感じています。