仕事をするならフリーランス?外資系?

先週に引き続き、今日は私の仕事や企業観にかかわるお話をしたいと思います。

前回のブログでは今後日本ではフレキシブルな働き方が進むだろうと述べました。私はその当事者として長年働いてきたので、これから同様の働き方を目指す方の参考となればと思い、少し書いてみることにします。

私はこれまで外資系、あるいは海外企業に直接雇われる(あるいはコンサル契約を締結する)形で仕事をすることが多くありました。働く場所は日本で、会社は日本の外という仕事スタイルです。今でこそリモートワークは普通になりましたが、時折現地に行き、現地のスタッフと直に会うことはあるものの、パソコンでしか会社とつながりのない関係というのは、時に心細いものです。しかもそれが日本と海外だとなおさらです。当初はウェブ会議も特別なシステムが必要で、現代のようにタイムラグなしにパソコンで音声のやり取りはできませんでした。現在リモートで仕事をされている方の様々な問題を、私は20年かけてじっくり経験してきました。

私は特に、海外企業の最初の日本人社員(つまり会社に日本人一人だけ)で、かつ日本での営業拠点立ち上げを請け負うことが多いのです。依頼する会社も日本のことが良くわからない状態のため、基本的に仕事に関し、誰かに相談するということができません。現在の仕事にかかわる日本独自の問題について、例えば海外の貨物の輸送や送金、税務についてはかなり勉強しました。税理士さんは日本の税務には詳しくても国際税務に明るい人はあまりおらず、私は自分で言うのもなんですが、国際税務については普通の税理士さんより詳しいです。またITに関しても、問題があったとき直ぐに会社にサポートしてもらえるわけではないので、こちらも様々な問題に対処しているうち、普通の人に比べ必然的に詳しくなりました。

ITというと、苦手意識を持っている人もいるかもしれませんが、ITこそ女性の味方であり、自由な働き方をサポートするツールに他なりません。だから積極的に使って、わからないときは詳しい人を捕まえて、できるだけ楽ができるように使い倒しましょう。インターネットがなかったら、私は今のような仕事をしていませんでしたし、世界とつながることもできませんでした。この時代に生まれて本当によかったと思います。

営業活動については、誰も日本で営業したことがないところで営業するわけですから、どんな顧客にアプローチをするか、どうアプローチをするかなど、会社の指示や顧客リスト、資料などもあまりないところからスタートです。私は小さいころから、他人に指示されるのが嫌いな性格で、とにかく自分でやってみるスタイルですので、すべて任せてもらえるのはとてもありがたいです。何時から、何時間働くとか、全く自由です。だからこそ意志が強くないと、全く仕事にならないかもしれません。自己管理も含めて、しんどいところはたくさんあります。特に外資は日本と違い、結果が出なければ契約終了ですから、それなりの結果が出るように頑張らなくてはいけません。これは自分でやらないと食べていけない個人事業主や、ベンチャーなどと同じです。ですがこのような仕事スタイルを維持していると、将来何をしても食べていける自信がつきます。

日本企業は海外に進出する際、まずは現地にオフィスを作り、そこに日本から管理職を出向させ、現地で事務スタッフを雇うことをするのが普通ではないでしょうか。ですが海企業はまず、進出する国で個人を雇って営業させ、売上が伸びるようだったら現地法人設立を検討することが多いように思います。この手の募集はLinkedInなどのSNSにもたくさん掲載されていますし、外資系企業をメインとするヘッドハンターも沢山案件を扱っています。もちろんその会社の業種によっては(例えば飲食業など)現地拠点が不可欠なものもありますが、物品やサービスの場合は、本国との契約の方が、現地法人にかかわる経費を節約できます。

日本企業が海外に進出するときはどうでしょうか。例えば日本の医薬ベンチャーが米国でも製品を販売したいと、現地法人を作ったり、日本人に日本から営業させたりすることがあります。前者はお金に余裕があればいいでしょうが、ベンチャーに海外法人の管理は荷が重く、日本人を出向させるのは多くの場合あまりうまく行きません。語学や専門性に問題なくても、現地の商習慣の理解や潜在的な顧客へのアプローチなど、現地採用スタッフにはかないません。また日本から営業をかけるのは、時差などの問題がありかなり難しいでしょう。いまはオンラインで営業も可能になっては来ていますが、すべてをカバーできるかというと難しいでしょう。こういう場合は現地で営業をやってくれる人を現地で雇うのが一番良いです。

ただ問題なのは、日本企業は本国のスタッフとの関係にこだわりすぎることです。例えば米国市場で医薬ベンチャーの営業を一人で請け負ってもらうなら、最低でも20万ドル以上は出さないとそれなりの人は雇えないでしょう。日本では社長でも2000万円程度の給料なのに、海外の一介の営業スタッフの待遇がそれより高いなんて、とケチる企業が実際多いようですが、それだとふさわしい人は雇えません。オフィスを設立したらならば、それだけでも年間何千万円と維持費がかかるわけですから、節約できた分は現地のスタッフの給与として上乗せするのが当然でしょう。

昔中国の企業に勤めていた時、その企業の上海にあった研究所の隣に、某日本の製薬企業の研究拠点がありました。その企業の事業開発の方に、「現地の研究所の所長について、いくら募集をかけても応募者がなくて困っている。一体どのくらい出せばいいか、中国の相場を教えてもらえないか」という質問を受けたことがありました。2010年くらいの話です。中国は当時、医薬研究で経験のあるシニアスタッフは絶対的に不足しており、いたとしても米国籍の人がほとんど(中国と米国で二重に課税される人たち)でしたので、給与相場はかなり高く、給与だけで最低2000万円以上、その他家とお手伝いさんと車を用意するくらいでないと応募者はいないだろうという時代でした。(ちなみに現在でも、中国の製薬企業の給与相場は、日本の2倍くらいが普通です)給与は需要と供給で決まりますから、日本より物価が安い国だから給与も低いとは限りません。その製薬企業が出していた募集は年俸800万円程でしたので、それじゃあ誰も応募しないよねという状況でした。出張に行った際は、その研究所の前をよく通りましたが、その研究所に出入りする人を全く見たことがないほど、いつも閑散としていて、活動しているのか?な研究所でした。

では海外企業の戦略は日本企業よりいつも優れているかというと、そうとも限りません。私の経験では海外企業は無駄なM&Aがとにかく多いです。雇われ社長がいきなりやってきて、無理なM&Aを繰返して会社組織がガタガタになるという悲劇です。私は医薬分野で長らく仕事をしていますが、雇われ社長というのは営業や財務出身者、あるいはコンサル出身者のことが多く、あまり技術的なことは詳しくない人が多いです。おそらく財務諸表などのみの検討で、売りに出ている製造拠点などを買収し、そこで製造している製品や顧客、売上ごと取り込んで売上アップをはかる、あるいは会社規模を拡大するのが狙いでしょう。

ですが売りに出ている拠点というのは、大抵理由があって売りに出されています。実際にそこに足を運び、わかる人が見ないと実態が見えて来ません。米国の企業に在籍していた時、その企業が買収したとある製剤製造拠点に行ったところ、30年前で時間が止まったような、設備全体がかなり古いところでした。私は製剤の専門家ではありませんが、それでも一瞬で認識できるほどでした。私が大学時代に使っていたような分析機器が現役で仕事をしており、しょっちゅう不具合を起こしてはプロジェクトが止まり、顧客に迷惑をかけていました。が、雇われ経営者というのは、大抵変なところにケチな人が多く、そうした設備のアップデートに最後まで難色を示し、結果常にプロジェクトの遅延が発生して顧客が離れ、サイトが活用できないままどんどんリストラが始まり、果ては使わないままサイトを閉じるというようなことをいろいろな買収先で繰り返していました。

買収先の設備のアップデートや従業員の訓練などを適切に行えば、利益も見込めるのでしょうが、一切の手をかけず、美味しいところだけさっさと吸い取ろうとするわけです。そして持て余してサイトを閉鎖したり、売却したりします。儲かるのは買収からほんの数年だけですが、雇われ社長は短期間で高い退職金をもらって退職するので、その後のことは関係ないというわけです。あるいは従業員から見て、まったくビジネスシナジーが感じられない買収に手を出し、結局活用できずにしばらくしてまた放り出す(二束三文で売る、譲渡するなど)というのも非常に多いです。

この手の無理なM&Aは外資だけかと思っていたのですが、残念ながら最近は日本の大手企業でも多くみられるようになってきました。よく知られているところでは、東芝のウェスティングハウスの買収や、最近ですとコニカミノルタの遺伝子診断の会社の買収が良い例ではないでしょうか。しかも両社の買収には経産省や官製ファンドが絡んでおり、官が民間のディールにくびを突っ込むと、本当にろくなことにならないという、よい例となっています。おそらくグローバルのコンサルの仲介なのでしょうが、仲介は良いとしても、やはり専門家がきちんと現地へ出向いてしっかり調査すべきでしょう。

日本企業は年功序列の労働環境もあって、どちらかというと長期的視野で会社戦略を立てることができたのがメリットだったのに、最近は目先の金儲け目的の、欧米型の短期的戦略になっていると感じます。一方で労働者は短期戦略に適するようなリスキリングが進まず、これでは経済活動は停滞するだろうなという感じがします。そんなわけで、大企業ほど大変な時代がしばらく続くと思います。