世襲政治家と女性政治家

新年あけましておめでとうございます。

昨年はロシアとウクライナの戦争、自然災害、新型コロナウイルスによる物流の寸断や停滞による物価の高騰など、明るい話題が少ない年でした。また昨年の戦争の影響による肥料や農薬の高騰、干ばつ、水害等による世界的農作物減産のため、今年は食糧不足も懸念されており、決して幸先のよいスタートとは言えません。とはいえ、うさぎ年の今年が、皆さまにとって新たな飛躍の年となりますこと、心よりお祈りしております。

さて私ですが、昨年12月は、コロナ禍が始まって以来3年ぶり、同じ月内にインドに二回も出張することになり、何かとインドとかかわりが深くなっておりました。したがいまして本年第一回目のブログでは、記憶が新しいインド関連のお話にしようと思います。

近頃日本では新聞の発行部数がずいぶん減ってきたように思えます。ですがインドではまだ紙の新聞は健在で、その種類の多さにもいつも驚かされます。ちょっといいホテルに泊まれば、いまだに部屋に2-3紙は毎日配達されます。

インドでももちろん、芸能やスポーツなどは新聞ネタとしては常に人気ですが、日本に比べて政治への関心がいつも高いと感じます。新聞に限らず、車に乗れば運転手さんとの話題は大体政治の話です。インドの政治家の汚職の話、インフラ開発がなかなか進まない理由、政府の物価や経済対策に対する不満等々、皆話し出すと止まらない感じです。

現在のインドの首相はナレンドラ・モディ首相で日本にも何度か来日されています。モディ首相はインド人民党(BJP)の党首です。BJPが政権を取る前、インドでは国民会議派が長らく政権を握っていた時代がありました。国民会議派という名称は、日本で慣用的に使われていますが、正式な党名は Indian National Congressで通称コングレス(会議)党です。インドが英国から独立した年、ジャワハルラール・ネルーがインド初代首相に着任しました。以来、国民会議派は政権与党となり、ネルー一族は娘のインディラ・ガンディー、その息子のラジーヴ・ガンディーなど三代にわたって首相を輩出しました。次々と首相を輩出するその様は、「ネルー王朝」と揶揄されるほどです。

インディラには息子が二人おり、当初次男のサンジャイが後継者とされていました。ですがサンジャイは自ら操縦する飛行機の事故で亡くなり、その後長男で、エアインディアのパイロットをしていたラジーヴ・ガンディーが政治経験ゼロ、初選挙でいきなり首相就任という快挙を成し遂げたのでした。その後ラジーヴ・ガンディーは母同様、暗殺によって首相の座を追われました。その後はラジーヴ・ガンディーのイタリア人妻であるソニア・ガンディーが外国人ながら、長い間国民会議派の総統を務めました。ラジーヴ・ガンディーの遺児であるラーフル・ガンディーは下院議員、その妹であるプリヤンカ・ヴァドラは結婚してしばらく主婦でしたが、最近政治活動を再開しています。

インドにあまり詳しくない人は、インディラ・ガンディーの子供や孫がインド独立運動の活動家であったマハトマ・ガンディーの血縁と思っているようです。ですが実は全く関係がありません。「ガンディー(Gandhi)」の名は、インディラ・ガンディーの夫の姓に由来するものです。夫のフィローズ・ガンディーは元々異なる姓だったものを、マハトマ・ガンディーの人気にあやかって改姓したという説もありますが、ここでは言及しないことにします。とにかく、インディラ・ガンディーとその息子たち、妻、孫はネルーの家系ということになります。

そしてネルーの妹は、インド女性初の外交官として活躍した人物ですし、事故死したサンジャイの妻、その息子も政治家です。ラジーヴ・ガンディーが暗殺された時、息子のラーフルとプリヤンカはまだ成人前でしたが、特にインディラ・ガンディーを髣髴とさせるその容貌やスピーチの巧みさ、カリスマ性などからプリヤンカが次期ネルー王朝の後継者として長らく期待されていました。一方のラーフルはかなりのイケメンですが、インド人に言わせるとあまり頭がよくないと、評判は良くないようです。インドの新聞やテレビでよく目にするのは、なぜかソニア・ガンディーやプリヤンカ・ヴァドラの動向です。

私は個人的に政治家の世襲を否定しません。むしろアジアでは二世、三世の政治家というのは多いのではないかと思っています。そのような政治家に対し、一種の憧れのようなものがあるのでしょう。二世、三世の政治家の良いところは、小さいところから政治とは何か学ぶ機会が多いこと、政治を取り巻く支持者、マスメディア等とどう協力すべきかなど熟知していることでしょうか。

人によっては二世、三世の政治家は世の中を知らないと批判する人もいますが、政治家も社会の構成員の一部ですから、政治家を代表する議員がいてよいと個人的には思っています。ただし国会議員の大半が、二世、三世議員になるような事態は明らかに異常です。政治家は人口の数パーセントもいないでしょうから、世襲議員は議員定員の数パーセントにとどめるべきと思います。また、できれば政治以外の仕事も経験してから政治家になって欲しいと思います。世襲議員が多いようであれば、世襲議員は親の選挙地盤を引き継いではいけない、親とは別の選挙区から立候補するなどの制限を設けるべきと思っています。

一方、支持者を含めた地盤というのも、全くゼロから政治家をスタートする人間に比べれば有利ですが、候補者が期待に応えられないような凡庸な人物であったり、選挙に負け続けたりすれば支持者の失望は大きく、世襲議員に有利とはならないかもしれません。ラーフル・ガンディーは本来ならネルー王朝の御曹司ですが、今一つ人気がなく、政治実績ゼロの、妹のプリヤンカに絶対的な人気があるというのも世襲ならではの現象でしょう。

一方、与党のモディ首相と言えば、「チャイワラから首相へ」といわれるように、貧乏な家に生まれ、子供のころから通りでチャイ(紅茶)を売っていた「チャイワラ(紅茶売り)」であったのが、BJPに入党し、苦労して夜学の大学、大学院を卒業し、グジャラート州の州知事を経て首相となりました。一応結婚歴はあるようですが、小さいときに親が決めた結婚で一度も同居したことがないとかで、実質独身、その生涯を政治だけにささげてきたような方です。

すでに72歳ですが、ヨガで鍛えた体と明晰な頭脳は健在で、現在でも朝5時に起きてヨガの修練をした後、夜12時に寝るまで一切のプライベートなしでずっと仕事をしているとか。そんな苦労の末に実力で首相の座を獲得したモディ首相と、親が有名な政治家で、かつ非常に恵まれた環境の中で政治家となったラーフル・ガンディーは、残念ながら比較することすら難しいのかもしれません。

インド人の友人に聞くと、モディ首相個人は圧倒的に人気ですが、BJPに関してはいろいろ意見があるようです。今後国民会議派が与党になることがあるかと聞くと、「ラーフル・ガンディーでは無理」と皆言いますが、「プリヤンカは・・・」と。政治家は個人の政治的な資質や能力だけではなく、人気やその時の運をどう味方につけるかも重要です。プリヤンカのある種のカリスマ性は誰もが認めるところなのかもしれません。政権交代は他の政党との力関係なので、野党やBJPの政策の失敗など、もちろんこれからどうなるかわかりませんが、再びインドに女性の首相誕生というのはあり得るシナリオなのかもしれません。一方の日本はというと、女性の首相誕生はまだまだ先のような気がします。

これからの不確実性の時代は、ジェネラリストとして何年も同じ会社に勤め、社内政治だけで仕事をしているような人ではなく、様々な会社でいろんな仕事を経験したり、起業したり、フリーランスを経験したりという働き方を経験した人、専門性を生かした仕事をしている人、多様な文化や習慣に触れてきた人に、メリットのある時代です。これまで良いとされてきた古い価値観が、180度変わるタイミングがすぐそこまで来ています。

女性は好むと好まざると、一部の公務員や大企業に勤める女性以外、そのような生き方をしている人が多いのではと推測します。元々女性は柔軟で変化に強い生き物ですから、これからの時代は明らかに女性の時代です。日本の場合、女性議員が少なく、国政はこれからの時代に対応しにくい構造を抱えています。世襲議員の適正化ともに、女性議員も増やしていけたらと考えています。