女性の活躍が遅れている国

6月21日から23日まで、佐賀であった学会に企業展示で参加しました。この学会はがん治療にかかわる研究の学会のため、参加者の内訳も多岐にわたり、私のようなケミスト、あるいはバイオロジストや、医学部で臨床をやっている方、基礎研究をやっている方など様々でした。学会自体はプログラムの要旨を見ているだけでも非常に興味深いものでした。また懇親会はオーガナイザーの先生がいろいろな趣向を用意し、地元のお酒や食べ物がふんだんにふるまわれました。大体、地方都市で実施される学会の方が、おいしいものにありつけるのです。

ただ気になった点が二つ。一つはビジネスにかかわることで、学会の展示に参加する企業がコロナ直後のせいもあるかもしれませんが、非常に少なく、外資系企業が多くなっていること。日本の企業は業績が思わしくないのか、はたまたあまりやる気がないのか、この学会に限らず減っている印象です。

もう一つは女性の少なさです。懇親会では、女性の参加者が、全体の1割もいなかったことです。医薬系の学会の中でも、研究にかかわる学会は女性の参加者がおおむね少ないように思います。つい先日、2023年のジェンダーギャップ指数が公表されましたが、日本は最低を更新し、146か国中125位でした。特に政治経済分野の指標は酷く、政治(138位)、経済(123位)と先進国とは思えないような指標になっています。これは研究者も一緒です。

NHKニュース 「ジェンダー平等 日本125位に後退 政治参加の分野で格差大きく」

私はこれまで、中国、米国、インドの企業で受託研究の仕事をしてきたのですが、そのどれも女性が活躍している企業でした。インドの企業の方が日本よりずっと女性が活躍しているというと、「信じられない」という人もいますが、社長や役員といったクラスにも女性は多いです。特にインドの医薬・バイオ分野は、歴史がまだ浅いこともあり、創業者社長も現役で沢山活躍していますが、その中でもおそらくもっとも有名なのが、バイオコンという企業の会長をしている、Ms. Kiran Mazumdar Shawです。Wikipediaにも載っています。https://en.wikipedia.org/wiki/Kiran_Mazumdar-Shaw

また彼女に興味のある方はこちらの紹介動画もどうぞ。字幕をオンにして日本語を選択すると自動で日本語の字幕が出ます。

彼女は1953年に、南インドのバンガロールで醸造所を経営する父のもとに生まれました。大学で動物学を専攻した後、オーストラリアの大学院で醸造学を学び、帰国して父の後を継ぐことを考えます。ですが女性のbrewmasterは当時インドでは見向きもされず、就職できなかったため海外で就職しようと単身アイルランドに行きます。そこでLeslie Auchinclossという、将来のビジネスパートナーに出会うのでした。Leslieは、現在でも様々な用途に使用されている、パパインという酵素をパパイヤから抽出するビジネスパートナーを探していました。KiranはLeslieと会社を立ち上げ、彼女がインドでのオペレーションの責任者となったのです。アップルコンピュータ―ではないですが、1,200ドルほどで購入した倉庫で、彼女の場合はたった1人でパパイヤからパパイン抽出の仕事を始めたのです。

起業してからももちろん、彼女にはたくさんの困難が待ち受けていました。まだ30歳そこそこの女社長なんかと一緒に働けるかと、なかなか従業員があつまらなかったり、インド国内では取引相手が見つからなかったり。ですがインド国内で商売をせず、最初から海外と取引を始めたことがこのバイオコンの強みともなりました。現在バイオコン社は売上1.4 billion USD企業に成長しています。 (これは日本ではジェネリック医薬大手の沢井製薬の売上規模、あるいはもっと多いくらいか)

最初パパインの製造、販売からスタートした企業は、現在はジェネリック医薬品やバイオシミラーを含む医薬品の製造、研究受託、医薬品原薬の受託製造などを行っており、インスリンに至っては世界の40%に相当する量を製造しています。ですからインドでは、バイオや医薬の研究、ビジネス分野で、Kiranという女性のロールモデルがすでに存在するわけです。私が勤めるインド企業にも、女性の管理職はたくさんいますし、皆Kiranのことは心の中で意識しているでしょう。「彼女にできて自分にできないわけはない」と。しかも時代は彼女が起業した時代より、はるかに女性に有利になっているのですから。

10年くらい前まで、学会や展示会のブースで立っていると、「ブースの責任者に会いたい、技術のわかる人に会いたい」とよく言われました。「私です」と言うと、怪訝な顔をされました。ブースに立っている女性はただの受付係、男性なら営業か技術者と思っている人が実際多いのです。最近はさすがに、私自身の体形に貫禄が出たせいもあって、受付の女の子とは思われなくなりましたが、まだまだこうしたジェンダーバイアスを感じることはよくあります。ましてや若い女性は尚更でしょう。

このままいくと日本でのジェンダーギャップが解消されるのは、2100年以降ということです。日本の経済が再起不能になる前に、政治や経済分野に女性を増やして日本を活性化する必要があるでしょう。