ジェネリック医薬品不足を解消するには?

前回のブログでは、現在ジェネリック医薬品不足が深刻になっていること。その理由の一つに大手ジェネリック企業の品質管理にかかわる不祥事があり、生産停止になった製品を他のメーカーが直ぐに供給できないなどの問題があることを書きました。

また日本の薬価制度が利益の出ないところまでひたすら引き下げられるシステムになっており、長期収載品では例え競合がいなくても、メーカーにとって利幅の薄い製品を生産しようというインセンティブにならないことを書きました。それでは今後日本の薬価制度はどうあるべきなのでしょう?今日は私の考えを少しお話したいと思います。

薬価制度というのはその国の市場の特徴と深く結びついているため、海外の制度をそのまま持ってくるわけにはいかないのですが、やはり様々な国の制度と比較することで、見えてくることはたくさんあります。

まず日本の制度で特徴的なのは、一つの製品にたくさんの企業が製品を上市していることがあげられます。市場原理で言えば、患者にとってたくさんの選択肢があることは良いことです。通常たくさんのプレーヤーがいることで製品の価格が下げられるということになるのですが、薬の場合は薬価が国によって決められているので、たとえ一製品に20社の製品があったとしても国が決めた価格以下にはなりません。したがってたくさんの製品があることは必ずしも患者のメリットではありません。

一方メーカーが卸や薬局、病院に販売する卸値は、企業により違いがあります。一般的に弱小メーカーは低い価格で販売することになります。たくさんの会社が同じ製品を販売しているということは、会社数で全体のパイを分け合うことになるわけですから、数量も必然的に少なくなります。薬に限らず、工業生産は生産規模が大きくなれば単価を下げることができますが、数量が小さければ価格を下げることができません。

2011年の震災で、あすか製薬で製造していた甲状腺治療薬のチラーヂンSが供給できなくなる事件がありました。製造拠点が被災し、製造できなくなったのです。この薬はあすか製薬だけしか製造しておらず、製造拠点が日本で一か所だけだったのです。その後日本政府は、このような災害にも対応できるよう、薬の成分である原薬の供給先を少なくとも2か所以上確保することや、製品の製造拠点の分散について、製薬企業に対応するよう要請しました。ですが現在でも対応できている製品は少ないでしょう。それは製造拠点を分散すればするほど企業として管理しなくてはならない対象が増え、結果的に製品価格に跳ね返ることになるからです。ジェネリック医薬品のように、1000以上の品目を供給する企業もある中、それぞれの製品の原薬の供給複線化、製品製造拠点の複数化をすることは簡単ではないでしょう。

このような問題を解決するには、一つの製品に対するジェネリック医薬品の製品数を限定することが必要だと考えます。その際ある程度政府が、現在供給している製品の品質やメーカーの強みなどを考慮し、どの製品をどのメーカーが供給するか割り当てるようなことが必要になるのではと考えます。例えば今まで、あるジェネリック医薬品に20社の異なったメーカーの製品が存在しているなら、それを例えば3社に限定します。そうすることで、製品を失うメーカーもあると思いますが、メーカーは、全体の品目数が少なくなった分、承認のある品目に関しては、品質管理や、製造拠点の複数化などの安定供給にもっとリソースを割いてもらいます。

メーカーにとっては、承認のある製品に関し、以前より多い数量を確保できるため、製造原価が下がることが期待されます。政府によるこのような操作が正しいのかという議論もあるでしょうが、元々薬価制度は国がさんざん介入して作られているわけですから、そのゆがんだ市場で市場原理を実現するのはもともと無理な話と思います。またジェネリックの製品数が限定されることで、薬局も無駄に多いジェネリック医薬品の在庫の確保をしなくて済むようになるでしょう。

日本は中小メーカーが多すぎるのでもっとM&Aを促進させるべきという声もあるようですが、ジェネリック医薬品の一つの製品に対するジェネリック製品の数を制限するだけでも実際かなりの淘汰が進むと考えられます。

ジェネリック医薬品、メーカー再編促し安定供給を強化…200社近くの大半が中小

ちなみにお隣の中国は、薬価政策に関しては日本に比べてかなりチャレンジングな政策をどんどん打ち出しています。それを地域限定、製品限定で試験的に運用し、評価した上で導入を検討するということをやっています。日本が途中で面倒で(事実上?)断念した医療技術評価についても、海外の学会でも積極的に発表していますし、論文も出ています。あまり日本のことを悪くは言いたくありませんが、日本はとりあえず検討したフリはするけれど、フットワークが重く、結局現状維持(事態はどんどん深刻になっていますが)をずっと繰り返しています。

現在中国で試験導入されているのが、ジェネリック医薬品におけるVolume Based Purchasing Policy(VBP、中国語では「帯量採講」方式)というものです。これはなんと特定の医薬品の製品に関し、企業に入札をさせ、落札した企業がすべての供給を担うというものです。もちろん落札するにはかなりの値引きが必要で、ある薬では90%以上値引きした企業もあったとか。ただし落札すれば落札した製品を総取りできるわけですから、数量が増えることで製品の製造コストを下げることも可能ですし、一定数量の製品を供給することが決まっていればマーケティング費用も大幅に削減することが可能になります。

個人的には、この中国の新しい薬価政策が良いとは思っていません。1社だけの供給になれば、製品の品質にかかわる問題があった場合や、何らかの理由により製造できなくなった場合、供給できなくなる可能性がありますし、その際別のメーカーが直ぐには対応できないからです。もちろん製品によっては複数のメーカーを落札させるでしょうが、それにしても中国はなんというか日本に比べて容赦ない感じです。ですが中国は、日本と同様少子高齢化に伴う今後の薬剤費爆発を見据えて、実にいろいろなことを考え、実験していると感心します。

中国ほどガチンコ勝負にする必要はないのではと思いますが、製品の数をある程度限定し、メーカーを整理することで、各メーカーが得意とする製品をより多く供給してもらうような制度にまずは変更が必要などのではと個人的に考えています。