続くジェネリック医薬品不足

私は薬学部卒業ということもあり、薬剤師をしている知人が多いです。最近の話題はジェネリック医薬品の供給不足がいつまで続くかという話です。

以前のブログでも少しジェネリック医薬品の話題を書いたのですが(新薬とジェネリック医薬品)、医薬品についてあまり詳しくはないという方のために少し説明すると、まず医薬品は大きく二つに分類することができます。①医療用医薬品(処方薬)と②一般用医薬品です。②は一般的なドラッグストアで手に入るもので、①は医師の処方せんが必要な医薬品です。そして①に関しては、日本の場合、ほとんどの医薬品が健康保険制度に組み込まれていて、年齢や地域にもよりますが、おおむね価格の7割が健康保険から負担されています。

健康保険には保険組合によっては、かなりの税金が投入されているため、日本では医師の診療や医薬品などの医療サービスの価格について、政府が介入し、事実上使いすぎないように制限をかけています。医薬品の価格に関して政府が決めている国は日本以外にもヨーロッパ諸国、英国連邦加盟国など(カナダ、オーストラリアなど)がありますが、一方で米国をはじめとし、自由薬価の国々もあります。

ジェネリック医薬品というのは、先ほど説明した医薬品のカテゴリーの①の医療用医薬品で、かつその医薬品の特許期間が満了し、特許を持たない別のメーカーがライセンス料を払わずに製造できる状況になっている医薬品を言います。

ジェネリック医薬品の特徴は先発品と同じ主成分で効果が同じであるのにも関わらず、価格が安いという点です。なぜ安いのかというと、ジェネリック医薬品の開発費が先発品に比べて安いからです。現在研究から開発までを行って新しい薬として承認を得るまでおよそ200億円から300億円かかると言われていますが、ジェネリック医薬品の承認に必要なコストは現在1億円程度と言われています。もちろん、薬を製造して販売するには、開発、承認以外のコストも必要ですが、新薬を一から生み出すことに比べれば圧倒的に安くすむわけです。ジェネリック医薬品はそうした研究開発費の回収の必要がないため、基本的に安いのです。

2000年以前、日本ではジェネリック医薬品はあまり普及していませんでした。高齢化が進む日本で薬剤費の増加は避けられないのは目に見えていましたから、厚労省はまず、ジェネリック医薬品の普及を促進して医薬品の平均単価を下げようとしました。そしてジェネリック医薬品を普及するための様々な政策を打ちだしました。現在、ジェネリック医薬品は数量ベースで8割を超え、厚労省の目標値に到達しています。私は2002年に、少しだけ薬剤師の仕事をしていたことがあるのですが、その時のジェネリック医薬品に対する一般の人のネガティブなイメージや抵抗感からは想像できないほどに普及したと思います。

日本に元々あったジェネリック企業というのは、比較的規模の小さな企業でした。それが政府のイケイケ政策に応えるように、どんどん製品数を増やし、大きくなっていきました。ジェネリック医薬品の大手と言えば、日医工や沢井製薬、東和薬品などがあります。そのどれもが、政府のジェネリック促進政策に呼応するように20年くらいの間に急成長しています。

その中でもちろん、得られた利益を設備投資や人材確保、人材の教育などに使えばよいのですが、そうではない企業もあったということです。例えば昨今のジェネリック医薬品の供給不足の引き金を引いたのは、小林化工や日医工による製造にかかわる不祥事でした。この二社に関しては、医薬業界にいる人が皆あきれるような、本当にありえない不祥事でした。

小林化工に関しては抗真菌剤に向精神薬が混入して発覚したわけですが、製造工程の勝手な改ざんや、製品の検品で問題が見つかっても敢えて無視するようなことなど、おそらく長年にわたって似たようなことが繰り返されてきたことでしょう。監督庁としての厚労省の責任も大変重いと思います。また日医工に関しても、10年以上の長きにわたって検品で不合格になった医薬品のリサイクルなど組織的な犯行がありました。日医工として今後存続するのはまず不可能でしょう。日医工は特に、医薬品企業が多く集まる富山県の代表的な企業であり、富山県の評判を貶めるような事件であったと思います。

日医工は特に、医薬品の製品数ではトップの企業であったために、その操業停止の影響が長く続いています。沢井製薬や東和薬品なども、日医工が製造していた製品の供給を補うべく努力しているのかもしれませんが、すぐに回復することは難しいでしょう。ですから、日医工や小林化工の不祥事が、現在でもジェネリック医薬品の供給不足が続いている理由の一つであることは間違いありません。

もう一つ最近になって言われていることは、ジェネリック医薬品の薬価が低すぎるからという理由です。日本の医薬品は原則毎年薬価が引き下げられますので、長い間市場にある医薬品(長期収載品)は薬価が製造原価に届かないものも出てきます。ですがこうした医薬品に関しては近年、政府は薬価の引き上げをしています。日本の場合、一度医薬品を市場に出すと企業は安定供給の義務を負うわけですが、原価割れでは供給し続けることができません。その医薬品が必要なものであれば、薬価の引き上げは当然でしょう。

一般的にジェネリック医薬品は、先発の医薬品の特許切れのタイミングで市場に投入され、その初期価格は先発医薬品の5割とされています。この価格は実は世界的にみると高いと言えます。日本では薬価が政府に決定されているため、日本のジェネリックメーカーは比較的高い薬価を維持することができていました。だからこそ、日本のジェネリック企業は過去20年ほどで急成長したのです。その利益で近年、日医工も沢井製薬も東和薬品も海外企業を買収したりしていたのですが、なかなか思うようにことが運びませんでした。日医工は特に、買収した企業の利益が全くと言って見込めなかったのに加え、高い買収の際ののれん代など、本業以外でも様々な問題を抱えていました。不正が発覚しなくても、企業としては行き詰っていたかもしれません。

日本のジェネリック医薬品メーカーの問題点として、製品数が異常に多いことがあります。製品数が多いため、原薬の製造をしているところはほとんどなく、おそらくほぼ海外からの輸入品を製品として加工しています。自社買い付けの原薬もあるでしょうが、商社経由などの割合が高く、日本のジェネリック原薬価格は世界一高いと言われています。日本の大手と言われるジェネリック企業ほど、原薬は輸入で製品製造(製剤化)のみ自社というところが多いでしょう。あるいは製剤も海外等で実施して、日本市場向けの包装のみを日本で実施というところもあるかもしれません。そうすると社内に原薬に関する専門家がいなくなってしまうので、問題があったときに対処するのが難しくなります。

数年前、原薬にニトロソアミンという発がん物質が混入していると、いくつかの医薬品が回収された騒ぎがありましたが、ニトロソアミンが混入していた医薬品を日本企業はたくさん扱っていましたが、どの企業も発見できませんでした。発端となったのはシンガポール保険省の発表でした。また私が今、一緒に仕事をしているインドの企業もニトロソアミンが問題になった医薬品を製造し、日本にも輸出していましたが、ニトロソアミンが問題になるずっと前から検出法を確立し、ニトロソアミンフリーの原薬を供給していました。問題が発覚した時、日本企業は原薬中のニトロソアミンを検出する方法すら知らなかったのです。

したがって日本のジェネリック企業は益々原薬を海外に依存するようになっています。また実際海外のジェネリックメーカーの製造する原薬は、基本全世界に供給することを想定して製造しているため製造規模が非常に大きく、価格に関しては日本で製造する場合に比べて勝負になりません。昨今、ロシア・ウクライナ戦争の影響や中国のCOVID19による度重なるロックダウンの影響もあって、原薬の製造コストは世界的に上昇していますが、自社で製造できないのであれば、そうした価格変動も受け入れざるを得ません。しかも今はかなり円安になっていますので、輸入原薬はこれまで以上に高価になっているでしょう。一方で薬価が毎年切り下がるとなれば、採算の合わない製品は確実に出てくるでしょう。そうした製品を積極的に製造しようとしなくなるのは企業としては普通のことです。

日医工は特に利幅の少ない製品が多かったようですから、その製品を引き継ぎたいと思う企業が少ないのでしょう。ですから政府としては安定供給を担保するために、こうしたジェネリック企業と対話を進め、特定の製品に関しては価格交渉にも応じ、企業に頭を下げて特別に製造してもらうという姿勢が必要だと思います。そうしないとジェネリックの供給不足はおそらく、しばらく続くでしょう。

最後に日本では今、ジェネリック医薬品のカテゴリーの中に、「オーソライズドジェネリック」というのが新たに出現しています。これが一体なんの目的なのか、私自身にはよく理解できないアイテムなのですが、要は先発メーカーが認めた、先発と同じ原薬、あるいは原薬以外の成分、製造プロトコールなどを使って製造したものを一般のジェネリック医薬品と区別しているものです。

その性質上、特許が切れる前に先発メーカーから許諾を得て製造を始められるため、上市のタイミングが一般のジェネリック医薬品より早く、確実に先発価格の5割スタートになります。一方、一般的なジェネリック医薬品は、その他ジェネリック企業と一緒に上市するため、先発価格の4割スタートが多いようです。価格が高くても、患者さんには人気があるようです。先発メーカーの中には、オーソライズドジェネリックのビジネスに興味を示しているところもあるようですが、新薬メーカーは新薬創造にもっと注力して欲しいですね。