イスラエル訪問記 その1

現在私は休暇でイスラエルに来ています。政治的な意図は全くなく、コロナ禍でのびのびになっていた、米国のビジネススクール時代のクラスメートと、卒後20年のお祝いをエルサレムですることになったからです。今回は現地の写真を少し掲載したいと思います。

イスラエルと言うと仕事がら、昔から医薬ベンチャーとお付き合いがありました。今でもいくつかの企業や、次々と会社を興しているような、いわゆるシリアルアントレプレナーと呼ばれる起業家も何人か知っています。

そこで改めてイスラエルについて訪問前に本を読んだり、現地の方と話したりして感じたことを書きたく思います。個人的には、日本の将来のあり方として見習うべき点や共通点もあると感じました。

イスラエルは人口およそ900万人、北海道より少し小さいくらいの小国ですが、前述したようにITや医薬など、最先端の分野でたくさんの企業や起業家を生み出しており、その技術は現在、世界の様々な先端産業をけん引しています。一人当たりのGDPでは、日本はすでにイスラエルに抜かれており、イスラエルが52,170.71 USD ‎(2021年)、日本が39,312.66 USD ‎(2021年)です。

産業面では、イスラエルは人口が少ない国だからこそ、また地政学的なリスクを抱えてきた国だからこそ、製造業のような人手が必要な産業は育ちにくかったと思います。むしろスタートアップ企業が、比較的短期間で生み出した技術や知財を海外企業にライセンスし、そのライセンス料を次の新しい技術を生み出す企業や技術へと次々投資するイメージです。日本人と違いイスラエル人は、多弁で非常に短気で、相手が話し終わるのを待てず、とにかく自分の主張したいことを弾丸のようにしゃべり続けるような人が多いように思います。このハイテンションを維持したまま、アイディアを形にすべく、まずはやってみる、ダメなら次へという文化であると感じます。

この先端技術を生み出しては次々にライセンスするというビジネスモデルは、私が超少子高齢化の日本が、これから目指すモデルではないかと考えます。日本政府は、これまでお家芸だった製造業にこだわりが強いのですが、人手不足が深刻化する将来、あるいはそれを補うべき移民を否定する政策のもとでは、製造業がかつてのように経済をけん引することは難しいでしょう。高度に訓練された人材が生み出す知財や技術を世に出し、そのライセンス料を得るというのが、個人的には今後の日本に最もメリットがある経済の仕組みと考えています。そのためにも日本は、もっと教育に投資をし、イスラエルが現在実施しているようなエリート教育も含めて、高度人材を増やしていかなくてはならないと感じています。

技術を生み出すポテンシャルという点では、もちろん日本はイスラエルに決して劣ってはいないはずです。ですが長年会社に守られ、仕事ができてもできなくても給与がもらえていた大企業中心の研究開発では、意思決定が海外に比べて異常なまでに遅く、競争が激しく素早い意思決定を求められる先端技術では不利に働くでしょう。もっとも、大企業ならではの巨大な設備投資を必要とするような産業分野であれば、競争力はまだあるのかもしれませんが。そして失敗を極度に恐れる大企業文化は、先端技術を科学的に見極めることよりも、上司の顔色伺いを重視するため、大きなデメリットであると考えます。特にイエスマンのサラリーマン社長がほとんどという状態になっている現在の日本の大企業は、これからも先端技術を生み出すという点においては苦戦するでしょう。

イスラエルは現在、海水を真水に変える淡水化技術を持ち、真水を国内はもとより、近隣諸国に供給しています。日本もこうした技術では目を見張るものが多くあるはずなのですが、ODAなどの無償援助として他国に提供することが多い印象です。日本はお金をばらまくことで日本のプレゼンスを示すような外交を続けていると感じます。ですが感謝されつつ上手にビジネスにする方法も今後模索すべきと考えます。

イスラエルは驚くことに、ほとんどの食糧を自給している国です。その食料自給に必要な農業は、世界でも最も進んでいると言われています。イスラエルでは廃水の9割近くを再生処理し、農業用水として利用しています。イスラエルの農業というと、私はかつての社会主義時代の「ギブツ」を連想していたのですが、現在のイスラエルは、乾燥した気候や土壌のデメリットを克服するために、アグリテックが最も発達した国となっています。

産業以外で特筆すべきは、イスラエルは途上国に比べても、出生率が高い国です。2017年の世界銀行統計では、3.11ということです。この高い出生率の背景には、子供や家族との団欒を重要視する文化や伝統の影響があるでしょう。たまたまイスラエルで乗車したアラブ系のタクシーの運転手さんによると、イスラエルは宗教的な理由で休みが多く、商売はたいへんと。観光地であるにも関わらず、お店の営業時間が日本に比べて非常に制限されており、オフィスワークにも残業という概念がないようです。従って両親が子供の面倒を見やすい環境にあると思います。

ただイスラエルにも経済格差というのは存在しています。裕福なイスラエル人の多くは海外を拠点とし、若い世代も活躍の機会を求めてどんどん海外に出てしまうとか。国内の富裕層は主に都市部の不動産オーナーだそうです。エルサレムなどの都市は観光地としてだけではなく、さまざまな宗教にとって重要な都市で、そこに拠点を構えたいという需要は多いようです。そのため世界中から買手が集まり、現地の若い世代がアパートメントなどを購入できない状態だそうです。物価も決して安くはなく、一般の人の生活は楽ではないように見えます。

イスラエルには男性も女性も兵役があるのですが、兵役を免除されているグループが存在します。それがユダヤ教の超正統派のグループです。彼らは伝統的に男性が宗教的な活動のみに従事し、生活のための仕事はしません。ですから基本的には女性が家庭を支えます。超正統派は避妊が許されず、女性が常に妊娠しているため実質的には女性が働けず、政府による生活保護で暮らしています。前述の運転手さんによると、彼らは平均10人くらいの子供がいるそうで、現在人口の10%ほどのこのグループの割合が、どんどん大きくなっているとか。かつてイスラエルには、社会主義国の崩壊とともに、ユダヤ系の優秀な研究者や技術者がたくさん流れ込むことで発展してきました。ですがそうした人材が現在は高齢化して一線を退き、その子供の世代が米国などへ流れ、国内には経済活動をしない人口が増えるという社会問題を抱えています。

この話を聞いてアメリカ人の友人が、「アメリカがイスラエルに一体どれだけのお金を援助していることか。援助されたお金がこういう人たちの生活保護費になっているなんて!アメリカは海外にお金を使わず、もっと国内のためにお金を使うべき!!」と憤慨していました。アメリカも今は、国内問題の解決を優先すべきタイミングなのかもしれません。

話は少し変わり、おとといはイスラエルのエルサレムからちょっと足を延ばし、ヨルダンにあるペトラ遺跡までツアーに参加し足を延ばしました。ヨルダンという国をこれまであまり意識したことがなかったのですが、遺跡はもちろん、アジアとは違う手つかずの自然があり、次回はもっと時間をかけて訪問したいと思いました。

ペトラ遺跡にて

ツアーには世界中から集まった方たちが参加されていて、他の参加者との交流も非常に面白かったです。私個人は自分から積極的に他人に声をかけるような社交的なタイプではないのですが(政治家に向くタイプか?ですが)、一緒に参加した友人がとにかく社交的で、次から次へと仲良くなるので、自然といろんな国から来た方々と様々な話を共有できました。

その中でニュージーランドから参加したという若いカップルが、「ニュージーランドはとにかく物価が高くなりすぎて、この状態が続くと生活できない。真剣に海外移住を考えている」と言っていたのが印象的でした。彼女の方は南アフリカ出身で、現在ニュージーランド在住だそうですが、「南アフリカはアパルトヘイトのより戻しで、現在白人が弾圧されている。白人はまともな仕事に就けないし、治安も悪い。だからニュージーランドに移住した。ニュージーランドは治安が良く満足している」と。

私は円安の影響で物価は日本が安いので、観光に来るなら良いと宣伝しましたが、所得が物価に比べて相対的に高くなければ、日本でも生活は苦しいので、移住は勧めませんでした。結局、世界中で同じようなジレンマを抱えているのです。よその国に短期的に移住し、様々な考えに触れるのも良いと思いますし、あるいはその国が気に入れば移民しても良いと思います。ですが結局、世界のどこにも逃げ場はなく、自らが問題解決に積極的にかかわるしかないのだと感じました。皆さんはどう思われるでしょうか。