STEM女子はなぜ必要?

新年あけましておめでとうございます。本年が皆さまにとって良い年となりますように。

また令和6年能登半島地震で被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます。

まだ現在進行形で、寒空の中支援を待っていらっしゃる方も大勢いらっしゃると思います。一刻も早く必要な支援が届き、復興に向けて動き出せますよう、願ってやみません。

さて今日は私の国際婦人年連絡会の活動とも重なるのですが、「STEM分野に女子学生を増やすにはどうすれば良いか」というトピックについてお話ししたく思います。

まずSTEMとは、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の分野を指し、諸外国に比べ、この分野を専攻する女子学生の割合が、日本では顕著に低いとされています。現在国を挙げてこの割合を高めようとしています。そしてこの一環として、2024年から東京工業大学が女子枠を設置することになったのはご存じの方もいるかもしれません。

それではなぜSTEM分野に女性が必要なのか?このSTEM分野、現代では新しい技術革新を生み出すために不可欠な分野です。その分野に男性だけしかおらず、男性だけの偏った発想ではイノベーションが生まれにくいのです。私は長い間、製薬業界で仕事をしていますが、製薬業界も同じ問題を抱えています。最近でこそ少し女性が増えてきましたが、私が仕事で交換する日本人の名刺は、50対1ぐらいの割合で男性の名刺ばかりです。日本は理系分野の女性の割合が低いので、女性を増やすことで、新しい発想や開発アプローチを取り込み、イノベーションを生み出すことが必要とされているわけです。

また個人的な考えですが、日本で過去30年、革新的な技術が生まれなかったのは、日本の産業が長らく男性に支配されていたからと思っています。日本男性は特に、企業では政治的に動く傾向が強く、技術革新のために自分の意見を主張するような人は直ぐにつぶされてしまいます。嫌な上司の言うことをハイハイと聞き、腐りながらもやり過ごす、あるいは身の安泰をはかる人が多いように思います。大企業では特に、無能な調整役のような人の方が出世します。そして出世した無能な人々が、過去20年くらい大企業のトップとして君臨してきました。結果は益々大企業が立ちゆかない状態になっています。

また無能ゆえに売り上げを伸ばすための努力ができず、利益を確保するため過剰なコスト削減に走りました。(その方がずっと簡単だからです)そのおかげで正社員は減り、研究開発人員も大きく人数を減らし、今では自社で研究開発をするのではなく、他社で開発したものをライセンスするだけ、購入するだけという企業が増えていますし、そのライセンス活動さえも、今はコンサル会社に丸投げという企業が増えています。過去20年ほど、日本の大企業ではなんの利益も生み出さない管理部門が肥大化し、企業の社会的責任や企業倫理をいかに大事にするかをアピールするためのCSRスタッフを増やしてきました。にもかかわらず大企業は、かつてないほどの不正の温床となりました。まるでブラックジョークです。

男性社会はまた、社内政治であきたらず、大企業が政治や官僚組織と結び付き、巨額の不正な補助金や税制の優遇策を受け続ける、いびつな産業構造を助長しました。ですから今後は女性がもっとビジネスに関与し、技術優位で、不正のないクリーンな産業構造を構築するのが、日本の復活の鍵だと思っています。

ちょっと脱線しましたが、現在の日本のSTEM教育の実態はどうなのでしょうか?少々古い(2019年)ですが、以下日経新聞からの引用です。これは元々OECDで発表された統計です。

「日本では工学系で16%、自然科学系では27%にとどまった。加盟国平均はそれぞれ、26%と52%だ。比較可能な36カ国のなかでいずれも最下位だ。日本の理工系が、飛び抜けて男社会であることを示している」

女性のSTEM人材が開く未来 選択阻むバイアス脱却を

STEM分野には含まれませんが、最近某大学の医学部で、女子学生の数を受験の操作で意図的に減らしていた例がありました。問題発覚後もこの大学の操作を支持するような世論が多くありました。その多くは、「医者は体力が必要だから」とか、「子育て中にフルタイムで働けない女医が増えると困るから」というようなものでした。ですが、条件を問わず超長時間労働をする医師など、今後は男性だっていなくなります。日本は変わらなくてはいけない時期に来ています。待遇を改善、あるいは仕事を効率化して子育て中の医師が男女問わず働きやすい環境を作るのが本来です。これは医師だけではなく、他の医療系の仕事も一緒でしょう。女性を差別していい理由にはなりません。

ちなみに、日本女性は男性に比べて医師に向いていないのでしょうか?成績が悪いのでしょうか?全然そんなことはありません。医師に適性があるかどうかについていえば、旧ソビエト連邦等の共産圏では、女医は常に男性医師の数を上回り、全体の7割近くが女性でした。医者にも基礎系や臨床系など色々ありますが、臨床系の医師ではコミュニケーション能力も重要なので、逆に女性の方が有利だったというわけです。現在、OECD平均で女医の割合は40%を超えていますが、日本は18%と最低です。ですから女医の割合が低い日本は、この大学の操作以外にも、なんらかの社会的バイアスがあると考えていいでしょう。

また脱線しましたが、ここで本題のSTEM女子について考えてみましょう。

私の卒業した高校は医者の子女が多く、理系に進む生徒が当時全体の7割くらいいました。理系では理工学系に進学する男子生徒も多かったです。ですが医療系に進む女子以外、理工学系に進学する女子生徒の割合は確かに少なかったと記憶しています。

それはどうしてかと考えると、女性の方が家族の期待や社会的役割を男性よりより敏感に感じ取る立場だからではないかと思います。私が学生の頃と今ではだいぶ女性のキャリアパスが変わってはいますが、当時は大学を出て数年勤めたら結婚して辞めるべきという風潮が強くありました。だから女の子はそんなに勉強しなくてもいいという親がたくさんいました。また北海道ということもあり、女子生徒はどんなに優秀で、たとえ東大や京大に余裕で合格できるような学力がある生徒でも、親が家から通える地元の大学しか受験させないというケースも多くありました。男子生徒は浪人してもよい、予備校に通っても、東京で一人暮らしをさせても良いと背中を押してもらえるのにです。ですからたとえ実力があっても、女子生徒の場合は絶対に合格可能な近所の大学や学部を受験するということが多かったと記憶しています。

これには地方の経済格差というのも少なからず関係していたと考えます。私が大学受験した1986年は、文科省の統計データによると北海道の大学進学率:男性28.7%、女性5.6%、全国平均:男性34.2%、女性12.5%でした。北海道の親が、娘の教育に二の足を踏んでいた様子が伺えます。2021年の大学進学率は、北海道:男性51.9%、女性41.4%、全国平均:男性58.1%、女性51.7%と全体的に大学進学率が大きく上がり、北海道も全国も進学率における男女差が縮まっています。にもかかわらず、日本で理工学系に行く女子生徒の比率が未だに低いのは逆に謎ですね。

私の母校である高校では3年生から文系と理系に分かれて授業がありましたが、私がいた理系の数学や物理のクラスは45人中、女子生徒が私を含め3人だけでした。1人は医者になり、1人は大学で土木工学を専攻して官僚になりました。高校全体としては男女比が2:1くらいだったので、女子生徒の理系割合が50%なら、15人くらいは女子生徒が同じ教室にいたはずです。

当時その高校では、試験のたびに上位100番くらいまで、科目別と総合点の両方で名前と点数をすべて公表していました。その時の記憶では2年生の後半まで、特に女子生徒が男子生徒に比べ、数学や物理や化学と言った理系科目が苦手であるということはなかったと思います。むしろ人数では半分しかいない女子生徒がトップを取るなど、全く珍しくもありませんでした。ですがなぜか理系の分野で優秀な成績を収めていた女子生徒も、3年では文系に進路を変えてしまうことが多かったと記憶しています。

ちなみに私は高校2年生で化学を、3年生で物理を選択しました。物理は1年の理科Iでつまずいてあまり自信が持てなくなっていたのですが、自分なりに攻略法を考えて、2年生の時に半年くらいかけて物理の基礎的な問題集を繰り返して勉強したところ、問題を解くこつがつかめて3年次には大好きになっていました。当時、私の母校は共通一次の数学や物理の平均点で、灘や開成などと順位を争うくらいでしたので、高校全体の数学や物理のレベルも高かったはずですが、その中でも物理の成績は良かったです。大学で薬学部に進んだ後も、暗記科目より薬剤学のコンパートメントモデルなど、微積分を駆使する科目が特に好きでしたし、今でも数学は好きです。

女性は男性より理系の科目が苦手というのは本当でしょうか?理系科目が好きな女子、得意な女子だってたくさんいるはずです。将来使わないと思うからわからないまま放置している、あるいはどうせ教えてもわからないだろうと、学ぶ機会さえ与えない女子高もあるのではないのでしょうか?

高校で同じ理系の数学&物理のクラスにいて官僚になった彼女は、大学の土木工学科に進み、そこでは100人くらいの男子学生中の数人の女性という存在で、測量実習などフィールドワークは特に苦労したと言っていました。そもそも土木工学科は、女子学生がいないことが前提でカリキュラムが作られており、当時のフィールドワークではトイレの準備がないのがデフォルトだったとか。

トイレ問題は理工学系の学部にはあるあるで、とにかく女子トイレが圧倒的に少なく、講義の合間に遠くにあるトイレまで行かないといけないことが多いそうです。生理中などはどうしてもトイレに頻繁に行きたくなります。文系に比べ、ずっと立ちっぱなしの実験実習やフィールドワークなど、生理中女子には辛いことも多いのは確かです。加えて周りが男ばかりだと、そういう悩みも全く理解してもらえませんし、相談することもできません。このような話を聞くと、やっぱりもっと女子学生の多い分野に進学した方が良いのでは?考える女子生徒もいるでしょう。

そして大学のSTEM分野で学んだ後、どんな仕事に就くかというところも、女子生徒には医療系の学部と違ってイメージしにくいのかもしれません。例えば日本以外の国では、コンピューターサイエンスを学んだ学生の需要が非常に高く、初任給で1000万円を超えることは今珍しくないですが、日本の場合、文系でも理系でも初任給に変わりはなく、SEなど、こき使われる割に給与が低い(スミマセン)というイメージがあります。勉強や実習に追われ、遊ぶ暇もなく大学生活を送ったのにもかかわらず、大学時代遊び惚けていた文系の学生と同じ給与ではやってられないという気がします。これは日本で職能による給与制度が根付かないと難しい問題なのかもしれません。STEM分野の不人気は、日本でエンジニアの給与を含めた理系の待遇があまり良くないことも影響していると感じます。以下、私なりの考えをまとめると、

<日本で女性にSTEM分野が不人気な理由>

  • STEM分野の科目を理解する能力はあるが、興味が持てない(個人の趣向の問題)
  • 親や社会の女性の役割に対する期待感に日本の女子学生が答えようとするから(親や社会からの圧力)
  • STEM分野の教育機関の受け入れ態勢の問題
  • 大学卒業後のキャリアパスに将来を描けない、ロールモデルがいない、卒業後の待遇が悪い
  • 女子学生の趣向や能力により適した、女性のロールモデルが多く存在するキャリアに向かうから(例えば理系なら、国家資格の取れる薬学や看護系学部と競争してSTEMに行く女子が減る)

世界的に日本の女子学生の理数系学力はトップレベルです。ですから能力に関して日本の女子学生は何も心配することはありません。私も米国やカナダで勉強したことがありますが、私自身、日本人の平均的な理数系の学力は米国やカナダの学生と比較にならないくらい高いと感じました。問題は興味を持つか持たないかです。

最近メルカリの社長の山田進太郎さんが、日本女性のSTEM教育推進のための財団を作ったそうです。

山田進太郎D&I財団

個人的に、この財団の今後の活動に注目しています。そしてSTEM女子と一緒に、これから世の中を変えていけたらと思っています。