日本の研究開発能力と賃金

私が政治家を目指そうと思った理由の一つに、日本の研究開発能力の低下に危機感を感じたというのがあります。日本にだけいて仕事をしていると、あまり感じませんが、日本以外と比較すると結構違いがよく見えます。事業開発という仕事柄、他の国のどんな組織や企業が、私の所属する研究受託企業にプロジェクトを送り込んでくるか、その規模(売上)などもつぶさにわかります。

ここ10年ほど、残念ながら日本の製薬企業の研究所の閉鎖や縮小が相次いでいました。日本の研究活動は医薬に限って言えば減少中です。コロナ禍は本当にお通夜のようでした。米国が同じ時期に、投資に沸いてイケイケだったのと全く対照的でした。昨日のブログに書いた、ポスドク(博士を持っているけれど短期のプロジェクトを渡り歩く研究者)の受け皿は益々なくなっています。そしてここ数年、日本企業はアメリカ、特にボストン周辺に研究所を建てまくり、研究員を絶賛募集中でした。(昨年までは)

ボストンに研究所を建てているのは、実は日本企業だけではありません。世界中から医薬関連の企業が集まりだしています。私の友人は、ボストンの隣町に小さな一軒家を10年以上前に建てましたが、評価額が倍以上になったと言います。ボストンは元々古い町で小さく、京都のように建物の高さの規制があるので、不動産物件が元々少なく、昔から家賃の高い場所です。それが医薬関連の研究者で溢れかえり、家賃をさらに高騰させています。

したがって、米国の方が、日本に比べて設備も人件費もずっと高いです。日本では学卒と修士、博士の給料はあまり変わりませんが、日本以外では、学士、修士、博士の給与が1.5-2倍くらいずつ変わります。だからこそ働きながら大学院に通い、高い授業料を払ってさらに上を目指すというインセンティブが働くのですが。日本の場合は残念ながら年功序列なので、学歴より社歴でしょうか。

こんなこと言うと左派(?)にいろいろ言われるかもしれないのですが、より高い学位をとってもお給料が変わらないなら、そのために授業料を払い、どこにも遊びに行かず、年末年始も返上して実験なんてやるだけ無駄というもの。学歴に応じた給与体系も必要と思っています。日本で博士課程に進学する学生が減っているのも納得です。

米国の研究者はどのくらいの給与をもらっているかというと、ボストン周辺だと新卒で1500‐2000万円くらいが基本給の相場と思います。家賃も物価も高いので決して金持ちになった気分は味わえないと思いますが、まあ十分でしょう。6年ほど前、私が米国の企業にいたとき、社員研修の時に偶然アメリカ人の同僚の給与明細を見たら、基本給がなんと25万ドルでした。(今のレートで3300万円くらい)彼女はすごく優秀な研究者だったので、驚きませんでしたが、そんなものです。で、日本だと新卒の給与は半分以下になるので、若くて優秀な研究者はアメリカを目指すでしょう。これはお金の問題だけでなく、研究者としての学びの場も多いという理由もあると思います。

日本企業がボストン周辺に研究所を持つのは、雇用の柔軟性や研究者のエコシステムがあるため、優秀な人材を雇いやすいことと、研究資金を効率よく迅速に集めやすいこと、共同研究できる大学やベンチャーが多い等々の理由からだと思います。経費は高くついても結果は出やすいと思うのでしょう。

SNSの一つであるLinkedInなどを見ると、ボストン周辺の企業に勤める日本人研究者が本当に増えてきたと感じます。ただ米国は、実力主義で大変です。世界中から優秀な研究者が集まるので、競争は日本と比較になりません。でも元々研究とは実力勝負の世界ですから、それを選んだ時点で競争からは逃れられないのですけれど。

日本の賃金が相対的に低いということは、いろんなところに影響があります。日本から研究者がいなくなってしまう前に、何とかしないとと思っています。