ワクチンについて考えること その1

私はワクチンの専門家というわけではないのですが、医薬研究に長らくかかわっている関係でワクチン開発についても普通の人よりはたくさんの情報が入ってきます。

新型コロナワクチンについては、今回初めてメッセンジャーRNA(核酸)をワクチンに採用しています。核酸を医薬に応用するというのは、私の大学時代の研究テーマです。当時(1990年初頭)から、核酸を医薬にするための研究がおこなわれてきましたが、実用化にはなかなか至りませんでした。2000年代に入り、核酸を投与することの難しさから、一旦核酸を医薬にすることを世の中があきらめたような状況になったこともあります。ですが10年位前からようやく、核酸を使用した医薬品が世の中に出はじめました。今回のRNAワクチンは核酸研究者の長年にわたる研究成果の一つです。

また、核酸を投与するための製剤技術が追い付いて(今回はLNPという、核酸を封じ込めるオイルの膜)、今回満を持して核酸を使ったワクチンが承認されたわけです。HPVワクチンに関しては、仕事で技術ライセンスにかかわったことがあるため、日本で承認、販売される前から、実は海外での状況も含めてずっと注目していました。

ワクチンに関しては新型コロナウイルスによる感染が広がる前から、ワクチン反対派と賛成派がいつの間にか対立するようになっていました。反対派の中には、ワクチンが人口削減のため生物兵器であると主張する人もいます。今回の新型コロナワクチンに関しては、ワクチンに使用されているRNAが体内でヒトの遺伝子を改変するように設計されていると、ある種の陰謀論を唱える人もいます。一方のワクチン賛成派の中には、ワクチン接種を他人に強制したり、ワクチン接種に否定的な人を攻撃したりするような人もいます。私は極端になるべきではなく、事実関係だけを積み上げて、最終的にはワクチン接種の是非は、本人の意思(子供の場合は親の意思)で決定すべきものだと考えています。

個人的には、ワクチンのメリット、デメリットを完ぺきではないにしろ理解しているつもりです。ワクチンが世に出たおかげで多くの人が、特定の病気に感染して命を落としたり、あるいは後遺症に苦しんだりすることがなくなったのは事実です。ただし新しいタイプのワクチンの場合、その効果と安全性が確認されるまで、あるいはその臨床データが積みあがるまで、慎重になるのは当然と考えています。

新型コロナワクチンについて

メッセンジャーRNAを使用した新型コロナワクチンは、理論的には効果が期待できるものの、かなりの突貫工事で開発、製造、供給されたため、安全性に関しては、データが十分とはいえないというのが、承認直後の業界の反応でした。以下のリンクは「日経バイオテク」が、ワクチン承認直後に、医師や研究者に調査をした結果をまとめたものです。

「新型コロナワクチン、早く打ちたい医師や業界関係者はどの程度いる?」

面白いことに、ワクチンの仕組みをよく理解している研究者の方が、医師よりワクチンに対して否定的だということです。(Nの数は少ないですが)医師についても、積極的に接種したいではなく、接種をしないことによる行動の制限や、業務への弊害などを考慮して、渋々ながら接種するというスタンスの人が大半だということです。もちろん、研究者や医師は、パンデミックに際して、社会全体としてワクチン接種によって集団免疫を獲得する必要性や重要性なども理解しています。それでも「やっぱりちょっとね」と考える人もたくさんいるわけです。ですから、この分野に詳しくない人が、怖いから自分は接種したくないと考えても、なんの不思議もありませんし、そのように思う人を責めるべきではないと考えます。

ちなみに私自身は新型コロナワクチンを2回接種しました。理由は積極的理由ではなく、多くの人がそうであるように、行動の制限があるのが嫌だったからです。私は普段海外出張も多くこなすので(2019年12月を最後に出国していません)、それができなくなると困ると思ったからに他なりません。

ですが2回目接種後の副反応がひどく、3回目以降は接種していません。2回目接種直後の副反応として、ひどい悪寒、倦怠感、40度近い発熱、全身の関節痛などが2日ほど続きました。その後なぜか手に力が入らなくなり、かなり長いことペットボトルのフタが開けられなくなるほどの筋力の低下と倦怠感を3カ月くらい経験しました。厚労省的には、因果関係なしで片付けられてしまいそうですが、事実は事実です。ですから3回目以降の接種はしないことに決めています。

日本では3回目以降の接種率が若い世代で低いようですが、それは副反応が若い世代ほど深刻だということがあると思います。その結果、3回目以降の接種を控えている人が多いのでしょう。それを批判する人もいるようですが、私は逆に日本の若い世代は年配の世代よりも、きちんと自分で情報を集め、よく考えて行動していると感じています。高齢世代では副反応自体出ない人が多いようなので、おそらく重症化を恐れて3回目、4回目と接種しているのではと考えます。

今回の新型コロナウイルスに関しては、一定の効果はあったと思っています。ですがワクチン接種での副反応がどうなるか個人個人でかなり違うように思います。当初はワクチンで集団免疫獲得、重症化を防ぐと言われてれていました。ですがワクチンを接種しても、あるいは感染して抗体があるはずの人も再度感染したり、重症化する例もあります。

イスラエルのように4回以上のワクチン接種がすんでいるような国でも、感染爆発が起きています。正直どこまでワクチンが有効なのか、研究者や医師もわからなくなってきているような気がします。ちなみに私の知人でも何名か亡くなっていますが、いずれも基礎疾患のない比較的若い世代で、ワクチン接種済みにもかかわらず重症化して亡くなっています。

それから最初から言われていたことですが、元々RNAウイルスであるコロナウイルスに対するワクチンを作ることは難しいということです。それはコロナウイルスが比較的早く変異する性質を持っているからです。RNAワクチンはその仕組み上、ワクチンのデザインから製造まで従来型のワクチンより早いのですが、ワクチンが変異に追い付いているのかも微妙です。

また今回、ウイルスのスパイクタンパク質を発現するためのRNAをLNPという油の膜に封じ込めてそれを製剤化していますが、このLNPの違いによっても効果や副反応の出方が違うこともわかってきました。したがってこの点については、次世代のワクチンでは改良されるものと考えます。またLNPより優れた製剤が開発される可能性も高いです。

ですから理想的にはワクチンは一度に同じものを供給するのではなく、変異の状況や製剤の改良をしながら、様子を見つつ供給するのが良いように思います。今回政府のコロナ対策で思うところはいろいろありますが、個人的に一番気になったのは、ファイザーやモデルナからあまりにたくさんのワクチンを一度に購入する契約をしていることです。

お役所は基本、自分の持っている契約のひな形を相手にサインさせるだけというのを慣習としており、契約を一から目的に合わせて起案する経験がほとんどありません。また英語になると全くダメダメで、海外の会社が驚くほど、とにかく本当に、本当に契約のレビューが遅いです。今回も契約に至るまで1年以上はかかっていたと思います。契約が遅れるだけでなく契約自体も、どう考えても日本に非常に不利な契約になっていると思わざるをえません。

医薬品の供給契約というのは、供給量によっては、一度に供給できないことは普通です。したがって何度かに分けて供給されることが多いのですが、後に供給されるものに関しては、キャンセル条項を設定することも可能です。今回のように、いつまで続くかわからないパンデミックでは、長期にわたる供給となるので、キャンセル条項はあってしかるべきと思います。もちろん、供給する方も、パンデミックがなくなったからと、一方的にキャンセルでは困るので、そこは交渉次第なわけですが。

医薬品には使用期限もありますし、ワクチンに改良があれば改良されたものを追加購入するとした方が、メリットがあります。最大、キャンセル料は100%までかかるかもしれませんが、それでもお金をかけて輸送して、特殊な保管庫で保管し、最後に余ったワクチンを大量に廃棄するコストを考えれば、購入費用だけでキャンセルできるのであれば、かなりの金額が節約できます。

今回の政府の対応を見ると、どうも製薬企業で余っている在庫を一気に引き受けたような感じがするのは私だけでしょうか。私が政府にも、ビジネス感覚のある人間が必要だと思うのは、今回のワクチンの購入に関して言えば、ビジネスをやっている人なら、どのようにワクチンを購入すれば一番メリットがあるか、どのように契約を起案したらいいか、実感としてわかるはずだからです。

政治家には法学部出身者が多いようですが、法律を作るのとビジネスでの契約はちょっと違います。契約は起こりうるビジネスリスクを回避するためのものなので、何がリスクなのかは、そのビジネスの経験がないと想定できませんし、契約に盛り込めません。企業の法務担当者も契約の交渉の時に「あとはビジネス判断です」と最終的に担当者に任せるということをよくやると思いますが、それはビジネスリスクを一番理解しているのはビジネスの担当者であって、法務担当者ではないからです。

長くなってしまったので、HPVワクチンについては次回としたく思います。