大学10兆円ファンド その後

これまで大学10兆円ファンドについては、何度かブログでも意見を述べてきたのですが、

大学10兆円ファンド 投資先の決め方について その1

大学10兆円ファンド 投資先の決め方について その2

大学10兆円ファンド 投資先の決め方について その3

その後動きがあったので、またコメントしたいと思っています。

また大学10兆円ファンドの背景については、次のリンクをどうぞ。下手すると年金基金も共倒れですね。

“10兆円”大学ファンドの船出 日本の大学衰退を救えるか 

最近のニュースでは、国際卓越研究大学という、研究分野で特別に優れた成果を出せると認定した大学にだけ、このファンドを運用して得た利益から支援することになったようです。3月末までにこの国際卓越研究大学に申請した10大学の中から、さらに数を絞るのだとか。しかしこれは、当初検討していた構想とどんどん離れていくと感じています。

この大学10兆円ファンドについて初めて知ったのは、元財務官僚の高橋洋一さんのYouTubeチャンネルでした。

高橋洋一チャンネル 第195回 研究にかける予算は選択と集中?バカなこと言うど文系のヤツら

当初は基礎研究の担い手である若手研究者にばらまく前提だったと記憶しています。元理系の高橋さんは、理系だからこそ、「研究なんて何が当たるかわからないのだし、役人には技術なんてわからないのだから、とにかく広く浅く配るのが良い」とおっしゃっていました。それがいつの間にか、稼げる大学に限定して投資をし、リターンをだすべきのような、まるでベンチャー投資ような話にすり替わってしまいました。儲けが出るようになったら、大学は独自の奨学金を提供できるようになるだろうと。話が逆なのでは?と思います。しかもその稼げる大学を判断するのは、技術のこともわからなければ、ビジネスをしたこともない役人です。日本は終わったと感じています。

大学は基本的には海のものとも山のものともわからない研究をするところであり、研究の成果がお金になるかどうかは誰にもわかりません。凡人が考え及ばないような研究ほど、民間企業のサポートもありません。だから国が支援すべきという話になるわけで、お金になる目途がついた研究や開発は、黙っていても投資先は見つかりますし、国が支援する必要もありません。

むしろ国が国立大学発の技術だからと、変に権利を主張したり、民間より圧倒的に遅い事務仕事をもって、ビジネスのわからない公務員が余計なお世話をしたりすることで、産業化を遅らせる危険性が高いと感じています。実はこの、もう少しで産業化できそう技術やアイディアが国の援助でたくさん潰されている様子を、私は日常的に目の当たりにしています。

私は普段、創薬研究のサービスを提供している企業に勤めているため、大学発の創薬シーズをもつ研究者や、大学発ベンチャーとお話をさせていただく機会が多いです。例えば少し前まで、大学はとにかく大学発ベンチャーをたくさん作り、特許をたくさん出そうとしていました。特許は確かに創薬のアイディアや技術を守るものですが、中途半端なものを出してしまうと、逆にアイディアを公にさらしてしまうことになります。

企業は常にそうしたアイディアに目を光らせているわけですし、そうしたアイディアに巨額の資金と優秀な人材を投下して一気に研究開発を進めれば、あっという間に製品化できるわけです。大学発ベンチャーは全く追い付けません。一方、大学発ベンチャーをサポートしている大学の職員や国の支援機関の公務員たちは、支援した企業が特許をたくさん出すことで、職員である自分自身の評価をアップすることできます。特許戦略などお構いなしに、自分が担当している企業からたくさんの特許を出すことが目的化します。現在は、そうしたいい加減な特許戦略が、どれほどデメリットが多いか、少しだけわかってきたようで、以前ほど、「なんでもかんでも特許を出せばよい」ではなくなってきているようですが。

いい加減な特許戦略の問題は、まだアイディアが固まっていないうちに特許化してしまうことに加え、意味もなくたくさんの国に出願することで経済的に破綻することです。特許の申請料というのは、どの国でもそれほど高くはないのですが、実は国際特許で各国出願する際は各国が指定する言語で行うため、その翻訳料金は膨大です。一言語あたり一千万円近くかかることもあります。たくさんの国に出願すれば、特許料だけで一件当たり数千万円です。

スタートアップの企業は、研究費でさえ数千万円の予算しかないのに、特許経費だけで何千万円も払うはめになります。大学も、大学発のアイディアにかかわる特許は大学で押さえたいでしょうが、特許にかかわる諸経費をすべてサポートすることはできません。(それが財力のある、米国のスタンフォードやハーバード大との違いです)ですから特許出願は、本来、研究のステージが進んでから慎重に行う必要があります。

いい加減な特許戦略のスタートアップからは良い研究成果は望めませんし、後の資金調達も難しくなります。そして最後には会社を清算し、その素晴らしいアイディアも、結果的に二束三文で売られたり、世の中に活用されないままになったりします。

また、日本の大学ベンチャーであるあるなのは、同じ大学の別の先生が、第三者から見て必要もないのにアドバイザーに就任して不必要な報酬が払われていたりすることや、研究以外の経費の使い過ぎで資金がショートする例です。

米国の大手ベンチャーキャピタルの投資先の企業は、創薬研究に関しては近年、私がいるようないわゆる研究受託機関(CRO)をもっぱら使っています。それは研究にかかわる経費の流れや研究の進捗が明確化可能だからと思います。日本の大学発ベンチャーの場合、提携先の研究室にお金が流れても、何をいつまでという契約がないことが多いことでしょう。また研究を実施するのが学生であれば、そもそも労務管理などできるわけもありません。まずは社内のリソースと知り合いに委託して研究費を安く抑えるというのは、一件合理的なように見えて、第三者から見ると、会社という箱もの以外の資金の使い道が、きわめて不透明です。またベンチャーにとって一番重要なプロジェクトの時間管理ができず、いつ成果が出るのか全く読めません。

最近は日本にも、創薬ベンチャーを支援する様々な機関が設立されています。メリットもありますが、会社運営に関する支援体制については、絶対あてにしない方が良いと感じます。役人がかかわると、とにかく会社の体裁だけを立派にしたがり、役員だけが高額な報酬を得ていて、肝心の研究は派遣の研究員を最低賃金に近い金額で数か月契約で雇って実施し、遅々として進まないというのが多いと思います。

そうした支援機関にとって、かかわった会社が存続している、上場したという事実がもっとも重要で、研究がどこまで進み、その成果が10年後、20年後どうなるか全くどうでもいいことです。日本の大学発ベンチャーは、いつのまにか、研究する気もないのに、役員になっている人物に給与だけ支払うためのもの、国の支援金を受け入れるための箱ものになり、細々と会社という組織を継続することだけが目的化します。

そういう例をたくさん見ている私としては、この国際卓越研究大学からスピンオフするベンチャーも、分野にかかわらず、おそらく皆同じ運命をたどるだろうと予想します。

さらには国際卓越大学の要件である様々な条件を維持するためには、研究の自由度も少なくなり、短期的にもうかりそうな研究以外は、研究しにくい雰囲気にもなるでしょう。教員も益々どうでもよい書類づくりに追われ、研究どころではないでしょう。

某地方国立大学の学部長をやっていた知人も、国際卓越研究大学のためではないですが、大学の国際交流のポイントをあげるべく、提携交渉のために各国の有名校を多数訪問させられたと。が、全く相手にされなかったそうです。訪問する前に、まずはメールベースで交渉して、合意できてから訪問すればよいのではと私なら思いますが、公務員はとにかく、相手の意志はお構いなしで、団体で現地を訪問して誠意を見せるのが、まずは大事と思うらしいです。その一団は、国際交流なんて全く専門でもなく、かつ経験もなく、英語もおぼつかない集団です。うまく行くと考える方が不思議です。そうやってたくさんの税金が、学生のためでも、研究のためでもないことに無駄に使われ続けるわけです。 国際卓越研究大学に支援された税金は、こうした研究以外の様々な無駄なことに多くが浪費され、研究費にはあまり使われずに終わるだろうというのが、私の正直な予想です。

本当に歯がゆいですね。もっと国会議員に、理系の産業政策のわかる政治家が必要と感じます。